帰ってきたEvernote。すべてが使いやすく、一貫したサービスに
ながらく停滞していたEvernoteが、ついにバックエンドも、ユーザーが目にするクライアントアプリも一新して帰ってきました。
ここ数年、Evernoteは開発スピードが遅くなり、日本語に関しては検索もうまくいかないために使い勝手が悪くなっていました。往年のファンであればなおさら、とても残念な気持ちになっていたのではないかと思います。
それでも大量の情報を整理するのにこれ以上便利なサービスがあるわけでもないため、新CEOイアン・スモール氏のもとでサービスがモダンなものに刷新されることが期待されていました。
そしてようやく、長い長い開発期間を経て新しいEvernoteが軌道に乗りつつあります。小手先の変化ではない、大きな改革のメスが入ったのです。
キーワードは「体験の一貫性」
Evernoteといえば、開発当初はガラケーも、Windowsも、Macも、iPhone も Android にもすべてクライアントが存在することが売りでした。
しかしこれらのクライアントはそれぞれ別々に開発されていたこともあって、Windows 版とMac版では見た目も、機能も違っていたり、iPhone でできることが Android ではできないといったことが頻繁にありました。
現在のTodoist や Notion といったサービスはクロスプラットフォームのフレームワークを利用していますのでウェブ版も、デスクトップクライアントも、モバイルアプリも統一された使用感をもっています。しかしもっと古い時代に開発されたEvernoteは、それぞれのプラットフォームで個別に開発された環境が負の遺産になっていたのです。
それが、ここ数年の開発でブラウザ版をベースに統一されました。まず開発され、リリースされたのは新しいエディタも含むウェブ版のEvernoteです。
新しいエディタでは、後述するハイライト機能や簡単に追加できるテキストブロックなどといった見た目の整理と、すべてのプラットフォームで共通する機能が注意深く抽出されました。
そして次に登場したのが、先週の iOS 版のアプリです。見た目も、機能も、ウェブ版に準拠しているものの、しっかりと iOS 14 に対応した快適な環境になっています。
また、これまで不可能だった複数アカウントの追加機能も加わっていますので、私のようにプレミアムカウントを複数使って大量の情報を整理している人には朗報でしょう。
そして今週、ついに Windows 版と macOS 版の新クライアント ver 10 がリリースされました。2つを並べてみると、ほとんど違いがないことがわかると思います。
このいまでは当たり前の状態にもってくるまでに、どれだけの負の遺産を整理しなければいけなかったかと思うと恐ろしい気がしますが、やっとやり遂げてくれました。
(現時点ではAppleScript対応や、ノートの作成日の編集、複数アカウントを越えたノートの移動といった機能はまだ未実装ですので、これらの機能に依存している場合はアップデートは待ってください)
クラウド側のバックエンドも更新
変化はインターフェースの見た目にとどまりません。Evernoteのデータベースと iOS、Android といったそれぞれのクライアントはこれまで別々に書かれたコードでやりとりをしており、バグの対処やコードの維持が難しい状態にありました。
そこでここ1年ほどかけて、すべてのクライアントが共通のコンジットの仕組みを通してクラウドとデータをやり取りする方式に改変しました。その解説はこちらの動画で確認することができます。
これで同期の信頼性が高まるとともに、新機能をすべてのプラットフォームに提供するときの手間も減ることになりました。これも負の遺産の一つだったわけですが、これでおさらばです。
また、ちょっとマニアックな話にはなるのですが、Evernoteが巨大になるにつれて増していたデータの読み出しの負荷を低減するためにデータベースのレプリカを動的に利用して負荷を分散させるといった仕組みも取り入れています。これによって、すべてのユーザーにとって読み込み時の負荷がスムーズになっています。
利用するのが楽しいモダンなインターフェースに
この地獄のようなクロスプラットフォームの負の遺産を追いやることによって、ついにEvernoteの触り心地や、編集機能を整理することが可能になりました。
ここはプラットフォームによっては機能が減った部分でもあるので、おそらく異論も出てくるはずですが、全体でみるとサービスの使い勝手がよくなっていることに注目したい点です。
たとえばノートの中身も、これまでフォントの大きさで見出しなどを表現していたのを、最近の潮流にあわせて「見出し」「小見出し」「本文」といったようにセマンティックに指定して、それぞれにスタイルを指定できるようになっています。
フォントはそれぞれのプラットフォームでさまざまに指定できたのが、サンセリフ、セリフ、等幅の三種に減らされています。これは Windows と Mac と iOS と Android でフォント依存性がたいへんなことになっていたのを統一するためのもので、機能は減ったようにみえますがむしろこれで良かったと思います。
機能がウェブ版、Win/Mac版、iOS/Android版で統一されていることも注目です。これまでは一部のフォーマット機能は一部のクライアントでしか使えないということも普通にありましたが、これでどこで情報を生み出し、どこで閲覧・編集しても体験が同じになります。
さすがEvernoteだと思うのはUIがすっきりとして利用していて楽しいものになっていますので、使っている気持ちもすがすがしくなっています。まるで新しいウェブサービスを初めて使っているように感じられます。
ここからEvernoteの逆襲が始まる
今回の大刷新でようやく負の遺産を一掃して、使いやすい新しいウェブクライアント、Win/Macクライアント、iOSクライアントの提供というスタート地点に立ったEvernoteですが、もちろんここからさらに楽しい未来が待っていることが予想されます。
クラウド側のバックエンドも、ユーザー側のクライアントもすべて統一されたということは、新機能が提供しやすくなるということでもあります。
たとえば現時点ではEvernoteは他の競合するサービスにくらべて共同作業がしにくい面がありますが、そこにEvernoteならではのソリューションが提供されることが期待されます。クリス・オニールCEOが約束したものの実現しなかった機械学習を利用した情報のマイニングやマッピングといった機能も実現しやすくなるかもしれません。
新しいEvernoteがサードパーティーのアプリやサービスとどのように連携するかも期待できそうです。特に ScanSnap Home などと直接 Evernote がやりとりできるようなことになれば楽しそうです。
このすさまじい規模の刷新をやりとげたイアン・スモールCEOとEvernoteのチームに惜しみない拍手を送りつつ、次にやってくる新機能に期待したいと思います。