「バレットジャーナル 人生を変えるノート術」ライダー・キャロル(ダイヤモンド社)
バレットジャーナルは、箇条書きの点を弾丸(バレット)になぞらえたノートの記法です。英語圏で話題になり、日本でも Marie さんの「『箇条書き手帳』でうまくいく」の紹介などを通してすっかり定着しましたね。
それでもまだまだバレットジャーナルの考え方は文具やノートを愛好する人々などが中心で、もっと、この百倍くらいは広がっていてもいいのではないかと思っています。
バレットジャーナルといえば、画像検索をすれば例がたくさんみつかる高速記法の手法や、月カレンダーのテンプレート、索引、習慣ログの付け方といった、見た目に美しくて楽しいノート術が注目されます。ともすれば、バレットジャーナルというのは「書き方」を学ぶものなのだというメッセージが強めに広まりがちです。
しかしついに登場したバレットジャーナルの原典、ライダー・キャロル氏による「バレットジャーナル 人生を変えるノート術」ははるかに深い、記法の奥に隠れている哲学まで掘り下げてくれます。
バレットジャーナルは、人生を変えてくれます。でもそれは正しい記法や美しいノートをとっているから、というわけではないのです。
自己啓発書としての「バレットジャーナル」の原典
翻訳でも400ページある本書を開くと、まず最初の80ページを充てている Part 1 でほとんどノートの記入の仕方について解説がありません。
そのかわりに、いかにして頭の中にあるごちゃごちゃとした思考を整理し、自分自身の意思に忠実な行動を心がけることが人生にとって大事かといった、自己啓発的なメッセージが続きます。これはバレットジャーナルを学ぶ前に、これから何を整理しようとしているのかを読者に認識させようとしている、とても正直な構成だと思います。
ここでキーワードとなっているのが「意志力」です。いま取り組んでいるものと、取り組むべきことと、取り組みたいとおもっていることには少しずつのズレがあります。それをノートに書き出すことで客観視して、 目的に即した行動を選べるようにすること、これが著者のいう意志力 です。
つまりバレットジャーナルは単に小洒落たノートの記法なのではなく、思考を整理するためにノートの書き方にフレームワークを与えようという考え方といえるのです。
思考からノートへ、ノートから行動へ
こうした基本をおさえたら、Part 2 から本書は本格的なバレットジャーナルの記法と、その活用方法の解説が始まります。
バレットや記号を使った毎日の出来事や思考の高速記法のしかた、マンスリーログやデイリーログのとりかた、ノートの中を検索しやすくするためのインデックスの作り方と書き方などです。
読者はこの Part 2 も、思ったほど長くはないことに気づくはずです。立ち読みしているひとは、もっとノートの例が満載しているのかと思ったのに基本的な解説しかないのかな? と、買うのをためらうかもしれません。しかし、この本は、これでいいのです。
なぜなら、ここまで本書を注意深く読んだ人は書き方そのものが重要なのではなく、記法の助けを借りてどのように思考が整理されたか、いかなる行動が生まれたかが重要だと理解しているからです。
だからこそ本書は、バレットジャーナルにおける記法がもっている役割や機能を完結に解説したあとは、より具体的な行動を起こすための Part 3 へと筆を進めるのです。
こうして本書は Part 3 から Part 4 にかけてどのようにしたらバレットジャーナルで問題認識を深めて解決方法につなげることができるか? もやもやとした気持ちをどのようにしたら明快にできるかといった活用方法の話題につながっていきます。
私は、ライダー・キャロルさんが本書をどうしてこのように書いたのか、その悩みをよく理解できます。
モレスキナリーの Yoko さんと、「モレスキン 『伝説のノート』活用術」を同じくダイヤモンド社から出版したとき、やはり悩んでいたのが記法そのものに解決の糸口があるわけではないというジレンマだったからです。
特定の書き方をすれば読者のなかに答えが生まれるわけではありませんが、ある程度は情報を整理するためにフォーマットを与えなければいけない。筆者が経験からそのバランスをとろうとしていることはよく理解できます。
そのせいもあって、本書はバレットジャーナルの書き方の本というよりも、ノートを通して自己発見をする、問題解決の意識を高めるといったところに重きがおかれています。
美しいノートのとりかたを期待していたら肩透かしかもしれませんが、はるかに大事なものが手に入る。本書はそうした誠意にあふれた、ノート術の本質に直結したガイドなのです。