きみはタスク管理について考えたことがあるか?: 「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門(星海社新書)
タスク管理について考えたことがありますか?
どのツールを使うのか?、どのテクニックがいいのか? というレベルではなく、どうして仕事がうまくいくのか、どうすればやるべきことと向き合うことができるのかという問題の根底にまで踏み込んで、タスク管理について考えたことがあるか? という話です。
そのように、タスク管理を生活において必要不可欠なツールとしてどのように考え、どのように構築するかという視点を与えてくれるのがブログR-Styleの倉下忠憲さん(@rashita2)による新刊「『やること地獄』を終わらせるタスク管理『超』入門」です。
でもどうして、そこまでタスク管理について考える必要があるのでしょう?
タスク管理は「精神のツール」だということ
皆さんの家には最低でもハサミが一本はあると思いますし、糊やテープもあるはずです。これは生活において切ること、貼ることといった所作が必ず必要な基本的なものだからです。
それならば精神や考えにとっての、「やるべきこと」を片付けるための基本的ツールがあってもおかしくはありません。それがタスク管理といってもいいのです。
そうした視点で本書はタスク管理をビジネスマンのツールとしてだけではなく、誰もが生活するうえで必要とする技術として整理し、理解を助けてくれます。
本書でもっとも特徴的なのは4-6章に渡っている「タスク管理の道具箱」の章です。
4章が「さまざまなリスト」でDoingリストから、Not-to-doリストまでのさまざまな用途のリストを紹介しており、5章が「周辺用語」、6章が「実践のためのメソッドとワークフロー」といったように、タスク管理にまつわる用語を整理しています。
GTDについても若干の説明がありますし、ポモドーロメソッドも、5分間ダッシュ法も、タスク管理を助けるワークフローならば、概ね触れられています。
それ以上に、本書では用語をその意味内容に踏み込んで整理しています。
たとえばある本では「タスク」ある本では「To-Do」と書かれている用語をその指し示している内容において解きほぐして、一つ一つを整理してゆく様子は哲学書か、教義問答を聞いているみたいで、この話題に馴染みのない人は驚くかもしれません。
この構成を通して読者は「やるべきこと」と「タスク」が似ているけれども実は違うものを指していたことを学び、リストにはオープンなものとクローズドなものがあるといった機微を知っていきます。そしてやがて、自分が解決しようとしている問題を正確に認識できるようになるのです。
ここはハサミを使うのがいいのか、それとまカッターか。そうした微妙な違いを、「精神のツール」としてのタスク管理において知ることができるのです。
不完全な人間としてタスクに向き合う
本書のこの構成は、時として苛立ちを誘うものでもあります。
もっとレディーメイドな、図版とフローチャートとわかりやすいアプリの紹介を通して即効性のある「こうすればあなたも達人!」的な本を期待していたなら、迷路に迷い込んだような感覚に襲われるはずです。
しかし著者がこうした回りくどい構成で本書を書いた理由は、その後の章「デルタ状の実践」と「よくある失敗とそのリカバリー」で次第に見えてきます。
レディーメイドなタスク管理のワークフローを導入して、アプリの便利さを強調してもタスク管理は必ず失敗します。思えば、これまでのタスク管理の本は「こうすればうまくいく」をアピールするあまりに、この「いかなるタスク管理も必ず失敗する。その理由と対策」にあまりページを割いてはいません。
人間は不完全な記憶や認識、あてにならないやる気、そしてその日によってムラっ気のある能力に翻弄されながら、外からやってくる「やるべきこと」に日々立ち向かっては必ずといっていいほど失敗を繰り返します。
そうした不完全さを理解しているからこそ、本書は「完璧に実践すればうまくいく」ような方法ではなく、なるべく柔軟で応用範囲の広い手法を自ら生み出していくことを目指しています。結果的には、読者の成長を促す構成になっているのです。
良薬は口に苦しがそのまま本になったようなものと思っていただければ良いでしょう。
本書を3度読む人には福がある
そういう意味で「超 入門」とは言いがたい面がある本書ですが、難解ではなく、平易でわかりやすい文体で書かれています。
読者はほんの少し、忍耐を要求されるだけです。
最初に書いた通り、今まで考えたことがない「タスク管理」という精神のツールについて考えるきっかけを手にして、それを自分の問題として認識し、咀嚼して自分だけの方法論を編み出すまで、おそらくは3回ほど本書を読むことで得られるものは大きいでしょう。
初読では理解できなかったり、自分に関係ある話として受け止められなかったことが、2度目にはもう少しつかめるようになり、3度目には自分の言葉で表現できるようになるはずです。 そんなに長い本ではないのですが、そのくらいは付き合う必要のある含蓄深さをもっています。
そこで手に入るのは「やるべきことと向き合うための技術」という、ビジネスマンの小手先のテクニックではない、人生を歩むための不可欠の武器です。
そうしたタスク管理について「考える」ための手引きが新書の形で登場して、多く人にとって手に取りやすい形になっているのは意義深いと思います。
ぜひこの機会に、タスク管理について考えてみてください。考えを深めてみてください。これは、考える人のための本なのですから。