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Slackのイラン渡航者アカウント凍結事件をきっかけに考える、SNSの淀み点としての2018年

Slackのイラン渡航者アカウント凍結事件をきっかけに考える、SNSの淀み点としての2018年

Summary:

壁が見えてくる頃には、はしごはすでに発明されているはず

ビジネス向けのチャットサービスとして全世界、さまざまな業種で利用されているSlackで先日、とつぜんイラン在住者、ならびにイランに渡航したことがあるユーザーがアカウント停止措置をうけるという事件がありました。

これは来年IPOを目指しているSlackがアメリカ政府がイラン、北朝鮮、キューバ、シリア、そしてウクライナのクリミア半島地域に対して行っている経済制裁に準拠した対応をとるために行ったもので、本来ならばそれらの国からのアクセスのみを停止するはずのところが、カナダやフィンランドや米国に在住しているユーザーまで対象にしてしまったために起こったできごとのようです。

影響をうけたユーザーは、ある日突然アカウントにアクセス不能になり、過去のやり取りやファイルなども失う形になってしまいました。

さすがにこれは精度の悪い実装をしてしまったとSlack側も認識しているようで、すぐに謝罪と説明が発表されるという流れになりました。

興味深かったのは、アメリカの Office of Foreign Assets Control (“OFAC”) に対応する過程でイランなどのユーザーをBANするのは仕方のない手続きだとしたうえで「間違ってアカウントを凍結してしまったユーザーにも、凍結対象であったユーザーに対しても適切なコミュニケーションをとらなかった」という謝罪が掲載されている点です。

凍結して終わりというのではなく、ちゃんと期日を設定したり、事前連絡はすべきだったというわけですね。そんなことはSlackほどの規模になればわかっていてもよさそうなのですが、どうしてこういうことになったのか、内部の判断の流れを知りたくなります。

国境と法律によって合法的に分断されるインターネット

そしてさらに危機的に感じるには、こうして一国の経済制裁によって全世界で途切れめなく使用されているSlackに裂け目が生じて、国境を境目にして「誰とでもコミュニケーションできる」という前提が成立しなくなっている点です。

これは去年、マストドンのPixiv率いるPawooインスタンスが、児童ポルノなどの規定について欧州側のスタンダードを満たせない可能性があるためにフェデレーションからブロックされたという例とも似ています。

EUについてはGDPR(EU一般データ保護規則)が成立したことによって、たとえばブロガーであってもクッキーの利用について説明とオプトインが必要になったり、著作権法の改正が進められていて米国のフェアユース的な世界観とまっこうから対立しそうになっている面が今年は浮き彫りになってきました。

いわば、国境と法律によってネットが分断されている状態がさらに加速しているわけです。ちょっと前までなら「あなたの国でこの動画は再生できません」のエラーくらいが国境を感じる瞬間だったのが、今後は情報空間そのものが国益にあわせて都合良く引かれた線を境にアクセス不能になったり、特定のコンテンツを流通させること自体に法的な瑕疵が生じる状態になることが多くなるわけです。

頼みの綱だったFacebookもあまり調子がよくない

これに対して、いわば「第二のインターネット」ともいえるFacebookのなかの空間があらゆる国も人種も巻き込んで、人類そのもののプラットフォームを目指していたわけですが、この一年はたとえばミャンマーにおけるロヒンギャに対するフェイクニュースの蔓延においてFacebookが果たした役割がアメリカの公聴会でハイライトされたりと、あまり調子がよくありません。

なんだかこの一年を振り返ってみると、Facebookはケンブリッジ・アナリティカ問題以降ずっと炎上したままですし、ツイッターは頑張って開発してきたアルゴリズム的なタイムラインを解除できるようにするなど退却を余儀なくされ、Google+は2019年4月で終了といったように、SNSにとっては散々だったようにみえます。

プラットフォームだけではなく、去年から言われていた「短時間動画への移行が進む」といった業界観測もひょっとしたらFacebookの流した希望的観測にすぎなかったのではないかといった話題もあります。

なんだかいろいろなものが勃興と衰退の分かれ道にあるような、水の流れがよどみ、方向性を失っているように感じる一年だったわけです。

これをネットが社会インフラとして成熟してくることの招かれざる副産物と見るのか、それともSNSという仕組みの成長の鈍化とみるかは意見がわかれると思いますが、ひょっとするとこうしたことをきっかけに次の数年から10年を牽引する新しいサービスなどが誕生することもあるからうっかりできません。

2019年は、こうした流れを打破する新しいなにかが生まれるのか、それともこのまま淀んだままの空気が続くのか、注目の年になりそうです。

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著者
堀 正岳