Oculus Goで読書できるImmersionVR Readerが微妙だけど未来はこちらだと確信できた

Facebook が先日リリースした安価なVRヘッドセット、Oculus Goにかなり夢中になっているところです。3万円以下にもかかわらず、解像度は適度ですし、反応速度も良好。なにより友人とおしゃべりできるOculus Roomがよくできていて、制限のあるデバイスでありながらアプリのデザインで快適さを演出しているのがとても好感もてます。

さて、Oculus Goを買ったのは、VRが未来のインターフェースとして、どのような使われ方をするのかが気になっていたからです。生活の中で利用するならば、いまある体験を発展的に置き換えなければいけません。それがブラウジングや読書といった、自分にとって大切な分野についてはどうなのかをこの目で確かめたいという思いがしました。

そこで今回ためしたのが、Immersion VR Readerという、現在Gear VRストアではおそらく唯一の読書環境のアプリです。

macOSからOculus Goにファイルを転送

Oculus Go上のストアでImmersion VR Readerをインストールできたら、次に自分のファイルをこちらに転送してみます。

WindowsでしたらUSBケーブルでOculus Goをつなぐだけですが、macOSの場合はAndroid File Transferというアプリをつかってマウントしないといけません。

これがなかなか気難しいことになっていて、ケーブルを接続して、Oculus Go側で許可を出しても成功しないことがあるので、何度かいろいろな試し方をしてみてください。

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VR-Headsetという名前のデバイスがマウントできたら、Android / data / com.pdk.immersionVR というフォルダを探し、そのなかの file / Books のなかにファイルを転送します。

現時点で対応しているのが、epub ファイルのみで、最近コミック用のCBR/CBZフォーマットに対応していますが、mobiファイルなどには対応していませんので、利用方法はけっこう限られています。

今回は、昨日リリースした拙著「Gmailで実践する『インボックス・ゼロ』」を転送してみて、読めるかどうかを試してみます。

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Immersion VR Readerの画面はこのようになっており、視界に固定幅の本の領域が表示され、360度の画像のなかで読書ができます。また、本の中の画像は左側に拡大表示することが可能になっています。

操作にはいろいろと難点があり、Gear VRのコントローラは対応しているようですがOculus Goのコントローラでは方向が支持できませんのでメニューの操作は頭でカーソルを動かさないといけません。

ページをめくる動作は、Oculus Goのタッチセンサーとトリガーでも動きましたので、読書している最中はそこまで不快ではないかもしれません。

バリデートしているePubファイルを正常に表示できなかった

Immersion VR ReaderはePubをアプリ内で変換して表示していますが、今回ためした自分の本では日本語の表示はできるものの、段落などに使用されている line-height などといった要素がページ内に溢れ出していて読書体験としては破綻してしまいました。

拙著のePubファイルは一応、ePub 3形式でバリデーションが通るところまでデバッグしてありますので、これは Immersion VR Reader 側の表示の問題のような気がします。

試しに ePub 2 のファイルを作って読み込ませたところ、こちらは変換すら終わらないという結果になりました。日本語を喉につまらせてしまったのかな…。

閲覧している様子はOculus Goから直接ライブストリーミングしてみましたので、ぜひ御覧ください。

体験としては微妙、でも未来は確実にこちらにある

今回の結果としては読書体験はあまりよいものではなかったのですが、読書それ自体が不快で、いまの紙やKindleリーダーといったデバイスに比べて無理かというとまったくそれはありません。

Oculus Go自体がとても軽量であること、解像度も高いこと、コントローラのフリック動作でページをめくることができることといった要素は、自然な読書を実現する数歩手前のところまできていることを感じさせます。Immersion VR Reader の次のバージョンではPDFの閲覧も可能になるそうで、今後も開発が期待されます。

こうなると、やはり欲しくなるのはVR空間内で本をもっと便利に扱う方法です。たとえばImmersion VR Readerにあるような、面陳の本棚の形式ではなくて、本当に背表紙しかみえていない書斎のような空間をVRでつくることができたらばということを想像します。

私もとても好きだった青山ブックセンター六本木店が6月で閉店となってしまうのですが、夢想するのはその最後の日に、店内の高解像度な360度画像をあらゆる場所で撮影し、本棚を忠実にVR空間内で再現し、背表紙をクリックしたらその本がとりだせるようにできたら、それは仮想空間で書店が生き続けるということにならないかということです。

私達の未来の書斎も、現実の本棚と、VRの本棚の組み合わせでもちろん構成されるはずです。書斎とは、VR空間も含めたものという新しい常識が自然に受け入れられるはずです。

VR空間のなかに誰もが仮想の大文書館をもつことができる時代、これが興奮せずにいられるわけがありません。

それが遠い未来ではなく、ほんの数年以内に手に入りそうだということも念頭に置く必要があります。VR読書の体験がさらに高度化したら、私たちの本の買い方はどのように変わるでしょうか、メモのとりかたは? 記憶はどのように残せばいいのか? 本の書き方や見せ方も変わるのでは?

そうした未来を先取りするためにも、Oculus Goをいまのうちに体験しておくことを、ぜひおすすめしたいのです。

(追記:書き忘れていましたが。冒頭の画像は職場の研究所で北極の画像をやはりVRで紹介していたときのものです。こちらも、科学コミュニケーションを変えるかっこうのデバイスとして今後発展しそうです)

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。