Evernoteの漠然とした未来

さいきんEvenoteについて聞くことがなくなったなと思っているひとがいるなら、その観測は正しいといわざるを得ません。

クラウド時代のノートサービス、情報整理サービスとしてのEvernoteの魅力や便利さはいまも健在なのですが、新機能という意味はここ数年停滞が続いています。実際、本格的なイノベーションに近い新機能って、新CEOのもとではひとつもないのが現状です。

こうした状況が続くと、はたしてEvernoteをこのまま信頼して使っていてもよいのか? 疑問がでてくるかもしれません。少なくとも、いま彼らがなにを考えているかは知りたいわけです。

そんななか、本日Evernoteの日本オフィスに招待をいただき、CPO(Chief Product Officer)のエリック・ローベル氏に、今後のEvernoteについての説明を受けました。具体的な話についてはまだシェアするのは早いということで半分以上の話はできないのですが、おおまかなEvernoteの今後の方向性については紹介してもよいということで、以下の連続ツイートをしていました。

https://twitter.com/mehori/status/1006864604469686272

https://twitter.com/mehori/status/1006915660104982529

つまりは、これまでも続けてきたEvernoteのワークスペース化をさらに推し進め、情報を集約、編集、共有できる場所として開発をするというお話でした。

また、数年前から力をいれている機械学習についても、縁の下の力持ちのように検索結果や関連性の高いノートの表示に活用できるようにしてゆくということになっています。

難しすぎる!

全体的にいって、説明をいただいた内容は意外性もなければ驚きもない、機能改善に類する話が多かった印象でした。「こんなことができるようになる!」とワクワクするような状況ではないのですね。

その原因として、私はEvernoteがかなり難しいサービスになってしまったという理由がありそうな気がしています。

もともとEvernoteは単なる箱でした。それまでファイルにいちいち名前をつけて保存しなければいけなかった情報を、パッケージにして保存してくれるだけの箱です。整理方法はノートブックとタグだけです。

それがいまでは、ドキュメント内で仕事をすることや、情報をシェアすることや、スタックやスペースといった機能で整理整頓を行うことが前提になりつつあります。箱の利点はただ放り込むことだというのに、箱が難しくなってしまったわけです。

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そういうこともあって、たとえばmacOS / iOS 上のメモサービスであるBearがEvernoteの代替サービスのように語られるようになってしまっています。

Bearは高度なノートブックや共有機能はないものの、情報をメモとして保存して、階層構造をつくれるタグだけで検索するという「メモのストリーム」を作り出してゆくアプリです。動作もキビキビとしていますし、Evernoteからの移行ツールもあります。

Bearは本来Evernoteのように使うものではないのですが、多くの人には難しい機能よりも「メモがただ時系列順にあり、文中のハッシュタグだけで選べればよい」という最低限の機能で十分だったというのは示唆に富みます。

私自身はディスカッションのなかで、大きくなりすぎたライブラリーを一瞬で絞り込むことができる、情報の部分集合を作れるようになってほしいという要望を出しました。

たとえば「article」というタグは、私の専門の研究の文脈と、一般的な新聞などの文脈ではまったく意味が異なります。だから情報を探す際に、専門分野にかかわるタグだけの辞書と、日常で使っているタグの辞書といったようによりわけができないと厳しいわけです。

とにかく、情報はたくさんもっているのがよいことではありません。たくさんもっていてもよいので、使う段階ですぐに絞り込めることは重要なのです。そのためには、データの構造はただのストリームのように簡単でいいので、情報のコンテキストをリッチにしてほしいわけです。

さて、こうした要望や意見をもとに、どのようにEvernoteが進化してゆくのか。すでに漠然としていて判然としない未来が晴れ渡る日は来るのか。他のツールにも目を光らせつつも、注視していきたいと思います。

 

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。