壁にぶつかっているあなたに贈るブレネー・ブラウンのエール

この数年間、夏は毎年 World Domination Summit に参加するためにポートランドに行っていたのですが、今年は会議が縮小されたこともあって参加していません。しかしこの5年で出会った多くの友人とのつながりはまだ健在で、ときおりその様子がFacebookなどを通して聞こえてきます。

先日、そんなFacebookの投稿の一つで、友人がこのような引用を投稿していました。Vulnerability、すなわち傷つきやすさについての TED トークと著作で有名なブレネー・ブラウンの本からの一節です。

英語には midlife crisis、すなわち中年(この場合は40-50歳)をむかえた人が直面する自信喪失やアイデンティティの危機という言葉があるのですが、そうしたひとにむけたエールの言葉です。でも単純なエールではありません。彼女は、まず鎧を脱いで傷を世界にさらすところから始めよと語りかけているからです。

I think midlife is when the universe gently places her hands upon your shoulders, pulls you close, and whispers in your ear: I’m not screwing around. It’s time. All of this pretending and performing – these coping mechanisms that you’ve developed to protect yourself from feeling inadequate and getting hurt – has to go.

中年の危機というのは、宇宙があなたの肩に手をかけ、近くに引き寄せて耳元でこう囁くときなのではないかと思う。時間を無駄にするだらだらとした時期は終わりです。いままであなたが何かのフリをしてきたり、演じたりしてきたこと、すなわちあなたが自分で自分のことを不適格だと感じたり傷つくことから自分を守るために作り上げてきた防御のしくみは、どこかに打ち捨てるべき時が来たのです。

Your armor is preventing you from growing into your gifts. I understand that you needed these protections when you were small. I understand that you believed your armor could help you secure all of the things you needed to feel worthy of love and belonging, but you’re still searching and you’re more lost than ever.

あなたが自分のために作った鎧は、あなたが自分に贈られた才能や運命の手の中に成長するためには窮屈になったのです。まだ自信のない頃は、その鎧の守りのちからが必要だったのは理解できます。そしてその鎧があるからこそ、自分が親密な愛情や友情に値するなにかであると自信がもてたのかもしれません。でもあなたはまだ探していて、失ったものも数知れません。

Time is growing short. There are unexplored adventures ahead of you. You can’t live the rest of your life worried about what other people think. You were born worthy of love and belonging. Courage and daring are coursing through you. You were made to live and love with your whole heart. It’s time to show up and be seen.''

時間は、残り少なくなりつつあります。しかし先には、まだ探求していたない冒険がまっているのです。他の人はどんなふうに思うだろうかと考えながら残り半分の人生を生きるつもりですか。あなたはそもそも最初から愛情と友情とに値するひとなのだということに気づいてください。勇気と大胆さはあなたが気づいていなくとも、血がめぐるようにあなたの中にみなぎっています。あなたは心の底から全力で生きて愛するために造られているのです。あとは姿をみせ、世界にあなた自身をみせるべきときなのです。

Brené Brown これは「やればできる」的な自己啓発本の呼びかけのようにみえますが、実は後半の「できる」の保証がない「やってみよう」への呼びかけになっているところが違います。

子供時代からいつのまにか大人になるうちに、世界と対峙するために必要にかられて身につけていたさまざまな防御のためのあれこれの仕組みがあります。

それは冷たさを装う態度であったり、人を寄せ付けない理論武装であったり、本当の自分を隠すためにみにつけたキャリアや虚栄心の盾であったりするわけですが、そういったものを意識して、いったん外さないとこの時期の危機を乗り越えるのはむずかしいとブレネーは診断しているのです。こうした防御をいったん解くのは痛みをともなうのですが、最終的にはそれが最も痛みが少ない道のりだということも含めて。

するとこれは、なにも中年だけの話ではないというのがわかります。もちろん中年でこれを意識していないときの心の痛みには私も覚えがありますが。

武器を手に入れ、心を偽って、自分ではないなにものかを演じて切り抜けることを覚えても、自分にあわない靴でたどり着ける場所には限りがあります。

ブレネー・ブラウンには、WDSで数年前に会ってお話したことがあるので、彼女の温和で、しかしするどい目が一つの daring = 挑戦をこちらに向けているのを感じながら私はこれを読みます。

「いつまで、それを身につけているつもりなの?」

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。