運動がダイエットの手段として思ったほどあてにならないという話

今回紹介する話題の結論は、とりあてて新しいものではありません。むしろ常識と言っていいでしょう。「運動と健康的な食事が、ダイエットの鍵だ」という話です。あたりまえ、ですよね?

でも、この二つのバランスが思った以上に厳しい、つまり体重を減らすために運動量を増やせばいいという公式にはいろいろと前提があるということを、Vox の記事と動画で最新の知見をまとめてくれています。頭の片隅においておくと、なかなか有益です。

体重を減らす手段としての運動は思ったほどあてにならない

「運動は、統計的にいって禁煙の次くらいに健康にとってよいことですが、体重を減らすツールとしてはあてになりません」こう指摘するのは、アメリカ国立衛生研究所のケビン・ホール氏です。

どういうことかというと、身体がどのようにカロリーを消費するかにおける運動の割合を、私たちは過大評価する傾向にあるということなのだそうです。生きているだけで体温の維持などで消費する基礎代謝、食物の消化に利用する分、そして運動とに分けると、消費カロリーのほとんどは基礎代謝由来で、運動は全体の10-30%に相当しています。

言い方を変えるなら、摂取するカロリーの100%は私たちの食生活の選択であるのに対して、消費する側については私たちは30%しかコントロールできないという表現になります。

たとえば他の変動成分をすべて一定と仮定して、90kgほどの体重のひとが一日1時間、週に4回走って運動をしたとして、一ヶ月で減少する体重は最大でも2.2kg程度となります。

It’s incredibly difficult to create a significant calorie deficit through exercise. https://t.co/gQsRy4tSdc pic.twitter.com/YdcRvLZwPP

— Vox (@voxdotcom) 2016年7月5日

けっこう減っているように思うのですが、面白いのは「他の変動成分がすべて一定」という部分が成り立たないという点だと動画は指摘します。生理的に、あるいは心理的に運動の効果を相殺する行動が同時に生まれるのです。

たとえば運動をしてお腹が空いたのでほんの少し多めに食べてしまう、あるいは疲れて午後は階段を利用しなくなるといった行動です。こうした Conpensatory Behaviour 「埋め合わせ行動」といわれる、たったこれだけのことが先ほどの運動の効果を相殺してしまうわけです。

また、体重が減るにしたがって基礎代謝も減るという効果も知られており、運動の効果が逓減してしまうという現象もあります。筋肉が脂肪より重いなどといった効果や、体型といったことも関係してきますが、「運動」というものに私たちが期待している効果が過大評価であるという指摘は興味深いです。

運動の効果は5分で食べる間食で吹き飛ぶ

さらに面白かったのが、タンザニアの狩猟を生活の基調としている人々と、パソコンの前に座って暮らしている私たちとの間に、消費カロリーの違いがあまりないという、2012年の研究結果です。この人々は運動しているからスリムなのではないというわけです。

ではなにが違うのかというと、食べているものと運動の組み合わせが彼らの体重の状態に直結しているとしかいいようがなくなります。

マクドナルドの一食のカロリーは、けっこう激しい1時間の運動量に相当しますが、運動する → お腹が空く → ポテトを L サイズにするというだけでめでたく運動量分が消し飛んでしまうという悲しさです。

けっきょく、結論はみなさんのご存知の通り、「運動と食事のバランスがダイエットの鍵」ということになります。ただ、この常識にすこし深い理解が得られたのではないかと思います。

運動を過大評価して、むやみに運動した結果その後の疲れや間食で効果を相殺しないように、ちょうど運動による消費カロリーを、基礎代謝量の逓減を少し上回るレベルになるちょうどいい運動量にむけて、自分をカリブレーションしなければいけないわけです。

むしろデータ好きの人には楽しい話のような気がするのですがどうでしょう。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。