祝、ビジネス書大賞「ハード・シングス」は起業家以外にもエールを送る必読の本

ビジネス書大賞2016の大賞に、いつもお世話になっています日経BP社の「ハード・シングス」が選ばれ、今週授賞式が行われました。

ベン・ホロヴィッツ氏による「ハード・シングス」は原題は “Hard Things about Hard Things” といい、直訳するなら「困難なことがらに関する、厳然たることがら」といった意味があります。起業家についての本に「理想を大きくもつんだ」「困難をイノベーションで越えるんだ」といった夢想的なものが多い中で、この本は容赦なく襲いかかってくる答えのない困難にいかにして立ち向かうかについての誠意のあるひとつの意見を表明しています。

事業がすべてうまくいっているなら問題はありません。でもそんなことは稀で、自らの手で友人を解雇しなければいけない、家族に深刻な苦しみを与えている状況に耐えなくていけない、どの選択肢も正解がない中でそれでも決断しなければいけないなどといった、血の滲むような話題が本書では描き出されます。

しかし、そうした暗い場面だけではありません。ベンはそうした自分の体験を正直に語ったうえで、役に立たない根性論や、「頑張れば最後にはうまくいく」などといった楽観論のオブラートに包むことなく、冷静さを保つためのアドバイスをくれます。

これは、起業家だけではなく、結局のところはハード・シングスに立ち向かわなくてはいけない私たち一人一人へのエールでもあるのです。そういう意味で、仕事をするすべてのひとにとって読むに値する良書です。

味わいたいこの一行

さて、手前味噌にはなりますが、以前おこなっていた日経アソシエでの「洋書先取りガイド」において「ハード・シングス」は2014年5月号で紹介していました。

hard-things2

この連載は、たしか一、二冊を除けばおおかたの本が邦訳されていて、こうして受賞している本もあるので、ちゃんと「先取り」できていてちょっと得意になっています。いい仕事をさせていただきました。

毎回、本の一節を引用するのですが、この回はここでした。

Startup CEOs should not play the odds. (中略) you must believe there is an answer and you cannot pay attention to your odds of finding it. You just have to find it.

スタートアッフのCEOの判断は賭け事ではない。運が良ければ答えに行き当たるだろう、などと思っては いけない。それが存在すると信じ、見つけ出すのだ

わたしの試訳は、あえて「賭け」という言葉を使って、“play the odds” を「運が良ければ答えが転がり込んでくるはずだと行き当たりばったりに進むこと」という意味にとらえています。

運など信じるな。答えはあるはずだ。答えが見つかるというあても保証もないままに、それをただ探すのだ。そうした決然さがある一節で、とても気に入っています。

これが、「ハード・シングス」の魅力なんですよね。あまい幻想などすべて打ち砕いたあとで、でも答えはあるはずなのだという、絶望をしなやかにかわす著者の生き方に触れることができる点が、読み物として気持ちがいいのです。

まだ未読の方がいるなら、まずはこの本を読まなければ他のビジネス書は意味が無いと言えるくらいにおすすめします。

HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうかposted with amazlet at 16.07.06日経BP社 (2015-04-17)
売り上げランキング: 601
Amazon.co.jpで詳細を見る

(追伸)

担当の中川ヒロミ部長の喜びの声もFacebookで届いていましたのでご紹介します。おめでとうございました!

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。