忘れっぽさの心理ハック。Doorway Effectとタスク管理の関係
たいていの人がこういう経験をもっていると思います。鍵を探して家のなかを歩きまわり、別の部屋のドアを開けた瞬間に「あれ? なんでこの部屋に来たのだっけ?」鍵のことをすっかり忘れてしまう、あの現象です。
こうした忘れっぽさはストレスですし、記憶が弱くなってきているのではないかと不安になりますが、実は心理学的には記憶の働きを考えるうえで重要な研究対象になっています。
Doorway Effect というこの現象は「鍵を探そう」といった頭のなかで覚えていた内容が、別の部屋に入る、別の行動をするといったトリガーをさかいに消えてしまう状況を指しています。
これが起こる理由はさまざまに研究されています。たとえば記憶は場所や、記憶した際に周囲にあったものに強く紐付いているので、場所が変わるとそれがトリガーになって消えてしまいがちという考え方があります。
しかし、それならば元の部屋に戻った時に記憶が戻る可能性が高くてもいいのですが、必ずしもそうなりません。
そこで記憶はイベントによって駆動されていて、部屋から部屋に移るというトリガーが、たとえば危険な洞窟をぬけたときに洞窟のことを忘れるのと同じように、記憶を消してしまうという考える研究者もいます(詳しくは Scientific Americanのこちらの記事にて)。
わかっているのは、コンテキストが複雑であればあるほど、忘れる可能性は大きいという点です。
The way our attention moves up and down the hierarchy of action is what allows us to carry out complex behaviours, stitching together a coherent plan over multiple moments, in multiple places or requiring multiple actions.
私たちの注意力が前面に出てきたり背景に隠れるというこの動きは、私たちに複数の場所で、複数の手順のあるような行動を可能にしている。それは時間経過や手順をこえて、一貫性のある行動がとれるようにするためだ。
The Doorway Effect occurs when our attention moves between levels, and it reflects the reliance of our memories – even memories for what we were about to do – on the environment we’re in.
Doorway Effect は、この注意力の度合いが変化した際に発生する。それはいま行っている行動についての記憶でさえもが、現在私たちがおかれている状況に依存していることを示している。
急いで仕事にいかなくてはいけない、バスの時間を気にしている、探しものが複数あって、気になることも複数あって部屋のなかを歩いている。そんな状況においては、部屋から部屋への移動、コンテキストの変化がこうした忘れっぽさを生み出すのです。
イライラする忘れっぽさ。対策はある?
Doorway Effectはそもそも私たちが日常生活を小さなつまらない記憶で押しつぶされずに生きるために必要な「頭の切り替え」機能です。ですから、それを完全になくすことは原理的に不可能です。
しかし鍵を探しているなら、「これからあの部屋に鍵を探しにゆく」という具合に記憶を別の場所にもアンカリングさせておくことで忘れにくくなる効果はあります。
にたようなことは、タスク管理でもみられます。
「書類を忘れないようにする」というタスクは曖昧すぎて、実際に自分の仕事場には紐付けられずに忘れてしまうことがあります。実際には、どこでこのタスクを思い出せばよいのかをセットで記憶しておいたほうが、トリガーとして有効なのです。
ちょっと冗長に書くなら「オフィスの玄関で、私は書類を忘れていないかチェックする」といった具合にです。
これは Todoist のようなタスク管理の位置情報トリガーが得意としていることで、「家を出たら通知する」「職場についたら通知する」といった設定をしておくことで、忘れものや、タスクを拾いそこねることは少なくなります。
扉を越えたら、私はいまここでこうしていることさえ忘れてしまいかねない。扉の向こうに行く自分は、もう別人なのだ。それくらいに思って、忘れないように外部のシステムにタスクを送り込むわけです。
(関連リンク)
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Why does waking through doorways makes us forget? | BBC future
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Why Walking through a Doorway Makes You Forget | Scientific American