どうして10000字なのか?Twitterの次の進化からみえるコンテンツの未来

Twitterが、その最大の特徴でもある140字制限を撤廃して、最大で10000字のツイートを送信可能にする変更を検討していることが報じられています。

もちろんタイムライン上に10000字がいきなり送信されるのではなく、情報の密度が高いというTwitterの利点を殺さないために140字のみが最初表示され、必要に応じて続きを読めるようになるではないかという推測がされていますが、いずれにしてもこれは大きな変化です。

これについてはCEOであるJack Dorseyが長文のスクリーンショットを撮影してツイートし、「こうしたことがなくなって、より文脈の豊かなやりとりができる可能性があるよ」と主張しています。

140字制限の撤廃が「ツイッターの終了」だと嘆く人もいれば、「すばらしいことだ」と歓迎する人もいます。両者にそれなりの理由があるのですが、まずはどうしてこうした動きに至ったのか、これまでの流れと、現在のソーシャルメディアの地平上でのTwitterの位置づけについて考えてみましょう。

マイクロブログから、情報ネットワークへ

そもそもTwitterが登場したとき、それは当初「ステータス・アップデート」であることが強調して作られていました。返信は可能ですが、基本的には一方的な投稿であり、ブログやウェブサイトに対置させたコンテンツの小さなコンテナという位置づけです。だからTwitterは当初マイクロブログなどと言われていました。

Twitterの爆発的成長は、それがなんであるか曖昧であることにも根ざしていました。実際、開発していた本人らも「ツイッターとはなにか」に明確な答えをもっていなかったのです。そして利用者はソーシャル的であり、リアルタイムの情報ネットワーク的なものでもあるために、誰もが自分の思うようにツイッターを利用しました。

Twitter の元CEOのEvan Williamsはこの時代を回顧してこうした発言をしています。

Twitter actually changed from what we thought it was in the beginning, which we described as status updates and a social utility. It is that, in part, but the insight we eventually came to was Twitter was really more of an information network than it is a social network

Twitterは私たちが当初思っていたものから変化したんだ。ステータス・アップデートやソーシャルなユーティリティを越えて、やがてソーシャル・ネットワークというよりは情報ネットワークと呼ぶべきものに成長したと我々は考えた

さて、同時期にFacebookがFriendFeedを買収し、ここでもタイムラインがどんどんと加速していきます。Twitterはツイートの流れ自体が速いですが、FriendFeedの最大の特徴であった高速でリアルタイムのコメントのやりとりがFacebookにも備わってゆくのです。

Twitter / Facebookタイムラインには画像が簡単に添付できるようになり、Instagramの爆発的人気をもってVisual Webの時代が始まります。Visual Webの動きはInstagramからVineのような短い動画の世界にシフトし、モバイルシフトともにやがてSnapChatを生み出します。

SnapChatの登場はコンテンツがウェブ側からはみえない閉じたサークルのなかで消費される時代を象徴しています。それは現在の最新の状況である「メッセンジャー戦争」の最前線でもあるわけです。ここではFacebook Messengerに対してLINE、WhatsApp、Slack、Hangoutsといったメンバーがしのぎを削っていて、互いに膨大な時間とアテンションを従来のブログ・Facebook・Twitterといったサイトから奪い取っている構造があります。

Instant Articleによって、ウェブの構造がかわる

ここまでの話が「ユーザーのアテンションはいまどこにある?」という観点でみたTwitterその他の位置付けとするなら、コンテンツの流通方法からみたTwitterのポジションも変化してきています。

一番わかりやすいのはFacebookによるInstant Article機能の登場です。この取組は、これまですべてのコンテンツはFacebookから外部サイトにユーザーを流出させていたのを、最初からコンテンツをFacebookにむかって投稿する仕組みに変化させます。

いうなればFacebookがコンテンツプラットフォームになるわけで、情報の流れの軸足が完全に変わるわけです。

これがFacebookの目論見通りになれば、インターネットはオープンなウェブサイトの海のなかに人が集っているFacebookやTwitterのようなサイトがあるという構造から、Facebookのなかでコンテンツが消費される形に変わってしまいます。こうしたインターネットの中に第二のインターネットを生み出す動きをTwitter、Google、Appleなどが警戒しているのはいうまでもありません。

Twitterが苦しんできたジレンマ

ここに至って、最初はTwitterに有利に働いていた自分自身の曖昧さが、今度は足をひっぱるようになりはじめます。ツイッターはソーシャル・ネットワーク的なサービスなのか、それともメディア的なサービスなのかというジレンマが表出するのです。

高速でリアルタイムに話題をつなぐ能力があるのでゆるやかにつながったソーシャル・サービスだという側面はあるのですが、そのわりにはグループでの会話には向きませんし、そもそも一対一であっても会話や議論に向きません。Twitterでの議論は日本でも、欧米でもたいてい「Twitter は議論にむかないね」というツイートで終わる傾向があるというのが冗談になっているほどです。

そこで、先ほどEvan Williamsの引用にあったように、Twitterを情報メディアとして進化させようという動きが強められるわけです。

画像の埋め込み、動画の埋め込みはこうした動きの一つですし、MediumのようなLongformのサービスとのエコシステムが強化されていきます。

こうしてみると、Twitterの持ち味である情報の密度と速度を保ったまま、よりTwitterをメディアとして豊かにするという観点で10000字投稿を可能にするのがとても自然に見えてきます。Twitter版、Instant Articleというわけです。

Ultimately, #Twitter10k is Twitter hosting publishers’ content, a response to Facebook Instant Article probably launching w/ major partners.

— F. della Faille (@fredd) 2016, 1月 6

消極的にみると、ソーシャル・ネットワークではFacebookに太刀打ちできない、そしてFacebookによるコンテンツの囲い込みが自らの死に直結すると悟ったTwitterにはこれしか手はないと考えることもできます。

10000字というコンテンツの大きさの意味

私たち日本人は全角140字という特殊なTwitterの使い方に慣れているので、10000字と聞いた時にはそれが全角1万字、短編小説くらいの長さだという意識のもとにこのニュースを受け止めてしまいます。

でもこの10000字はもちろんアルファベットの文字数でとらえらるべきもので、調べるとこの長さにはちゃんと根拠があります。

post

Mediumによると「熟読する」コンテンツにおいて短すぎず、長すぎず、理想的な読み物としての体感の長さは7分だという調査結果があります。これは英語だと約1600ワードに相当します。

英単語の平均文字数は5.1字ですので、これは約8160字ということになります。10000字はこの理想的な長さに対して標準偏差 +1.0ほどを加えて、ちょっと長めの記事も対象としているわけです。

また、ここにはインラインの画像、リンク、広告といったリッチなコンテンツも盛りつけることができます。ツイッターを一切離れることなく、ステータス・アップデートから、ニュース記事、ブログ記事、討論、写真、動画、広告をすべてホストするという宣言でもあるわけです。

これから、どうなるのか

Twitterにおける長文投稿の始まりは、もし実現したなら非常に大胆な一歩になることは確実です。

成功したなら、情報量の多いリッチなコンテンツがTwitter持ち前の密度と速度で世界を駆け巡ることになります。すべてのコンテンツを生み出す人は選択を迫られます。自分のサイトで文章や写真や動画を公開して、そこにむけて誘導するのか。それともFacebookやTwitterにむけてパブリッシュするのか。これはニュースサイトやブログのゆるやかな死の第一歩とみることもできるわけです。

失敗したなら、TwitterはFacebookなどに対してもっていた特異性を失って、Facebookの機能のサブセットにすぎないサービスとして人気を失ってゆくという未来もありえます。

Twitterを使う私たちはどのようにそれを使えばいいでしょうか?

まずは、求める情報がウェブサイトから、Twitter/FacebookにInstant Articleのような仕組みでプッシュされるのかどうかを見極めて、情報を求める場所を選び出さないといけません。

コンテンツを生み出している人はもっと難しくて面白い選択を迫られます。もはや個人や企業のサイトにコンテンツを出すだけでは足りず、Twitterというコンテナに向けてコンテンツを調律しなければいけないかもしれません。

ウェブのあり方の長期的な潮流の潮目に、私たちは来ているのかもしれません。

(追伸:ちなみに、この長いブログ記事で文字数は4000字ほどになります。英語ではLorem Ipsumをつくってみるとこのようになります。英語圏のひとにとっても、10000字は十分すぎるほど長いというわけで、さまざまなコンテンツを盛り込めるように future proofされていると考えられます)

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堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。