マイクロソフト Surface Pro 4 とアップル iPad Pro を使い方と価格の2軸で考える

Surface Pro 4 と iPad Pro が争うように登場し、デスクトップパソコンやノートパソコンに変わる体験を求めている人には興味深いクリスマス商戦となっています。

欧米圏でも Apple のティム・クックCEOが「PCの時代は終わった」という趣旨の強い発言をして、その是非も含めて話題になっています(Telegraphのインタビュー)。

“I think if you’re looking at a PC, why would you buy a PC anymore? No really, why would you buy one? / Yes, the iPad Pro is a replacement for a notebook or a desktop for many, many people. They will start using it and conclude they no longer need to use anything else, other than their phones.”

PCを見ていて思うんだ。なぜ PC をほしいなんて思うんだろう。実際、ほしいと思う? iPad Pro はとても多くのひとにとってデスクトップパソコンやノートパソコンの代わりになるものだ。彼らはそれを使い始めて、電話をのぞけば、他になにも必要ないと結論付けると私は思うよ。

本当の戦いはどこにある?

もちろんこれは発売されたばかりの主力商品を売り込む CEO の言葉ですから、その言葉をその通りに信じてもいけませんし、反論をしても無益な部分はあります。実際、クックCEOの落着いた態度のなかに隠れた鋭い一撃によって、iPad Pro をめぐる報道は、それが「ノートパソコンのかわりになるか?」をめぐって繰り広げられています。

この件に関しては、割合日本のメディアは「ノートパソコンのかわりになるかも?」とボカしているのに対して、いつも Apple から事前にレビュー機を借りることができる雲上人の多くが「これはノートパソコンの代わりにはならない」と断ずる記事を公表しているのが目立ちます。

Walt Mossberg と John Gruber の二人がこぞってこうして口にするのは異例といってもいいことです。特にJohn の記事は長いですが、一読に値します。要点をぬきだすと、iPad の登場時にはそれが iPhone と MacBook の中間にあったのが、iPad Pro の登場によって MacBook を凌駕するようになった今、生産性の視点で真に Pro の要求を満たしきれていないのは主としてiOS の限界のためだと論じています。

すると、クックCEOはAppleにありがちな、欠点のある製品を消費者に納得させるために「時代が変わった」というセールストークをしているのでしょうか? それともなにか別の論点を隠しているのでしょうか?

これに対する一つのヒントになるのが、「多くのひと」が何を指しているかです。多くのひとは、生活において何をパソコンに、タブレットに求めているのでしょうか?

従来からパソコンを使っている人なら、パソコンができることのすべてがその対象だと考えるのが自然です。だから、そこに不足が一つでもあると、それは欠点として挙げられます。実際、Walt Mossberg 氏も、John Gruber 氏も、自分のやりたいことに対して手数が多すぎるか不可能な点を、欠点としてあげています。

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しかし、クックCEOが指摘しているのは、これからタブレットを使いはじめる、そもそも最初に触れるコンピュータがノートパソコンではなくてタブレットの人々へ語りかけている可能性があります。独断と偏見で、パソコンで行いがちな作業を、それにかかる手数の複雑さでスペクトルにしてみると、これがわかりやすくなります。

Surface Pro 4 は、ノートパソコンができることをなにもあきらめない戦略で臨んでいます。それどころか、タッチパネルにしかない操作感を加味することでノートパソコンでもタブレットでもない境地を切り開いています。しかし後述するように、それによって価格面では消費者にたいへんな買い物をすることを要求してます。

逆に、iPad Proはこれまでのノートパソコンは必要がない、激しいオフィス文書の作成や開発環境を必要としない人に狙いをつけています(iPad Pro で XCode を使えるようになるべきだという人もいますが)。

価格の軸を加えると、見方が一変する

使い方の軸で考えて、自分はiPad Proが良さそうだ、いやSurfaceが気になる、といったように気持ちが高まっても、価格を見ると見方は一変します。

iPad Pro と、Surface Pro 4、そして MacBook / Air / Pro の主だった構成を以下に並べます。iPad Pro と Surface Pro 4 についてはこの比較だとキーボードがなければ意味がないので加えてあります。MacBook Air などについては CPU を増強するオプションなどもありますがここでは考慮していません。また、括弧書きの iPad Pro の RAM は公表値ではなくていくつかのサイトの調査結果を書いています。

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さて、これだとあまりよくわからないのですが、一番右の列で順列をかけると次のようになります。

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たとえば iPad Pro 128GB Wi-Fi+ Cellular に16万円ほどかけることができる人の場合、それだって大金ですが、「それは MacBook 256GB、あるいは MacBook Pro 13in 128GB と同程度使えるのだろうか」という視点が生まれます。先ほどの「使い方」の軸で iPad Pro が 100% できない部分に未練があるならここで注文をクリックする手が止まってしまいそうです。

もっとひどいのは Surface で、Surface らしさを発揮するには普通のノートパソコンができるすべてを諦めたくないわけで、OS が利用する分も考えたら妥協しても Surface 256GB Core i5 がほしくなります。そうすると軽く20万円を越えてきます。安い Windows ノートパソコンがあることを考えると、相当 Surface という製品に思い入れがないとここに飛び込むのは難しい…。

また、最高スペックの Surface Pro 4 512GB Core i7 を買うお金で MacBook Pro 13in 256GB と iPad Pro 128 GB Wi-Fi モデルの両方を買うことができるといった計算もできてくらくらとしてきます。ここに CPU パワーを加えて考えると、失礼ですがなんだか iPad Pro も Surface Pro 4 も買い手をかつごうとしているんじゃないかと思えてくるほどです。ともかく、相当にこの製品への思い入れがないといけません。

まとめ

見方によってはクックCEOの「iPad Pro / Surface Pro 4 は普通のノートパソコンのかわりになるのか?」という多少ミスリーディングな設問は、他のノートパソコンとの直接比較を価格競争で有意に立っている Surface との比較においてカモフラージュする効果をもっているともいえます。新しいものに対して私たちは強いバイアスを感じますから、しょうがありません。

「使い方」と「価格」を吟味したうえでやはりこの新製品が示す可能性に飛び込んでみようと考える人もいるでしょうし、それくらいならば最高スペックの MacBook Air を買おうと考える人もいるかもしれません。

私などは Surface Pro 4 のタイプカバーが Surface Pro 3 でも利用できるときいてそれならそれでいいと決め込む気になってきました。それでも論文を読む環境としての iPad Pro は気になるんですよね…。

この比較が購入時の、あるいは不買時における参考になれば幸いです。

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堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。