侵害を叩くのだけではもったいない、著作権の「本当の力」を知るためにいま読むべき本
「著作権」ということばには面倒臭さがつきまといます。
理解するのが難しい、知らずにいると思わぬ形で叩かれる可能性がある、著作権にうるさい人がいるのでどこまで守ればいいのかわからない。
本来は、なんらかの作品を作り出す人を守り、作品の公正な使用を広めるためのルールなのに、ルールを守らない一部のひとによって著作権は炎上の火種のように扱われたり、著作権の運用の現状を好ましく思っていない企業などが繰り返し消費者の権利への攻撃を繰り返した結果、どうにもこの話題は触れるだけで頭が痛くなる雰囲気があります。
しかし著作権というのはその名の通り、「権利」です。
商業的な作品を作って利益を得るわけではなくても、ブログを書いたり、写真を撮影したり、自分自身を表現することに喜びを見出している人にとって、自分自身を守り、作品を守り、そしてさらに作品を生み出すために知っていると利益になることが多いのです。
それを平易な形で解説している本が登場しました。日本独立作家同盟主宰である鷹野凌さんによる「クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本 」です。鷹野さんから貴重な一冊をいただくことができたのでゴールデンウィークに読んでいました。
それにしてもタイトル長い!
ちょっと例題。この2つの例の正解は?
ちょっと本書に登場している実例をあげてみましょう。
天才外科医を描いた有名な漫画「ブラック・ジャック」の名前をタイトルに含む「ブラックジャックによろしく」という作品がありますが、これは著作権という法律からみて許可が必要なのでしょうか? 後者には「・」がないから大丈夫? いや、そもそもなにを根拠にして「よい」「わるい」が判断されるのでしょう?
あるいはもう一つの例。
ありがちなライトノベル的な物語のプロットを思いつき、それをブログなどで書いていたとして、他人がそれに類似した作品を執筆してしまった場合、これは権利を侵害されたといえるのでしょうか?
答えは前者が「あくまで法律的に許可はいらない」(仁義としては別)で後者も通常は「侵害されたとはいえない」(アイデアだけでは作品とはいえない)が正解となります。どうでしょう? 少し意外だったのではないでしょうか?
この二つは本書のわりと序盤で、「著作権とはなにか」「何が保護されるのか」そしてその理由についての解説を読むと理解できます。
しかしそれよりも大事なのは、この知識がなかったなら「なんとなくダメそうだからこのタイトルはやめておこう…」という判断をしてしまうかもしれないことです。
また、知っていればこそ「アイデアだけでは保護されないから、ちゃんと独創性のある作品としてまとめておこう」という動機付けにもなるという点です。
対話と実例から知る、実際的な権利の話
作品というものは無からいきなり生まれるのではなくて、日々の刺激から影響をうけて生み出されるものです。表現することは自由ですが、それを広く世の中に配布したい、誰か他の人に知ってほしいというときに守るべきルールであり、自分を守るプロトコルが「著作権」の知識なのです。
それについて本書では「先生」と「聞き手」のライトな対話で紹介していきます。全編、これ対話篇なのです。また、漫画イラストも随所に散らしてあります。
ちょっとライト過ぎてライトノベルのようでもあるのですが、内容はなかなかするどいところに果敢に攻め込んでいきます。
というのもこの本、決してすべてのことに白黒をつけるのではなくて「ここはグレーになっている」「ここは権利者の裁量であいまいになっている」というボーダーラインを丁寧に拾っていくからです。
二次創作をしたいけど、どんな表現は頒布方法なら問題がないのか? 他人の作品の模倣はどこまでがOKでどこからが侵害となり、その判断基準はどうなっているのか? こんなありふれた疑問へ明快な解答が与えられているのです。
また最終章には自分の作品が無断で使用されたり、無断転載された場合の対応方法などについても詳しく実例とともに紹介がされています。
クリエイターではなくても知りたい、権利の話
この記事では簡単のために「著作権」とまとめていますが、実際にはさまざまに存在する公表権、複製権、公衆送信権、同一性保持権なども、それぞれが設定されている理由と実例とともに紹介されています。実際、私も本書を読んでようやく自信がもてる程度にこれらの用語をしることができた気がします。
こうしてみてゆくと、著作権というのはなにも無断転載だ!侵害だ!といったきな臭い話が本質なのではなくて、さまざまな分野でオリジナルな作品を守り、さらにオリジナルな作品を生み出してゆくための指針として利用できることがわかります。
また、「自分はクリエイターではないのだけれども」という人も、ツイート一つが著作物として扱われる場合と、そうではない場合について知っておくのは有益です。人は無意識に作品を生み出しているものなのですから。
まとめ
私が本書を読み終わった感想は「鷹野さん、本当にありがとうございます」でした。
よくもまあ、こんな面倒で、感謝されることも少なそうな話題についてこれほどまでに丁寧で実用的な本を書いてくれたものだと思います。
鷹野さんの軽妙な筆致と、弁護士の福井健策氏による綿密な監修のおかげで、本書はいま一番わかりやすく、いま一番読むべき著作権の本になっているといっていいでしょう。
本書の内容が広まることで、より多くの作品が生み出される環境が広まってゆくとよいなと、心から願っています。
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