ありふれた素材「不織布」の可能性を開拓する3Mの面白さ #3mjp
「家造りらの捨てた石が隅のかしら石になった。これは主のなされたことで、わたしたちの目には不思議に見える」
マルコによる福音書12章10-11節、詩篇118篇
直接のつながりが最初はみえなくても、あるいは専門家ではない人の目には不思議でも、ある技術が、他の技術の基礎になっているということはよくあります。
第5回目となる3Mのセミナーで、ふだん耳にすることは多いものの、どういう利点があるのか意外に知らない「不織布」(ふしょくふ)について学んできました。
聖書の例ほどではなくても、その発明がここにつながるのか!、という面白さがこの会社にはあるのです。### 不織布ってなに? その起源とメリット
そもそも不織布とはなんでしょうか? 普通「布」という素材は繊維を織ることで2次元の広がりを持たせていますが、これだと織りの方向に目が生じます。
不織布はこれとは違い、繊維を圧縮するか、化学的にシート状にすることによって織りの存在しない布地を作ります。
フェルトは不織布の一種と考えることができますが、これはそれこそ紀元前数千年前からアジア・ヨーロッパ地域で知られている素材で、地方ごとに誕生伝説もさまざまです。
たとえばメッツの聖クレメンスと聖クリストファヌスが迫害から逃れるときに靴ずれを防ぐために靴の中に繊維を入れて歩いたら、旅の終わりにはそれがフェルトになっていたという物語がありますが、「圧縮」と「濡らす」という製造工程が説話と一体化したものだと考えられます。
繊維を圧縮したり、何層にも重ねてから石鹸水で濡らして作るという工程は手間のかかるものです。しかしなぜそれだけの手間をかけても古代の人がフェルトを作ったのかという理由が、現在もフェルト、その工業製品である不織布を利用する理由に直結します。
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ほつれない: 切断面から布がほつれてしまうことがないので加工製品に向いている
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強い素材: 折り目に沿って破れたり裂けることがないので、同じ面積の布が圧力などに対して強くなる
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扱いが楽: フェルト同士を縫い合わせたり、熱で吸着させるなど加工の手間が楽
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かさ高: z方向、つまりは厚み方向に対して高く、空気をたくさん含んでいる
特にこの最後のポイントが大切で、この特徴のために普通の布に比べて保温、通気、濾過、弾力、吸水、防音などの素材の機能が生まれます。
古代の人に大切だったことが、そのまま、いまの不織布の工業利用に関係しているというのは学んでみないとわからないポイントで面白いですね。
3Mの不織布技術
3Mで不織布、英語でいうところの Nonwoven fabric の開発が進められたのは1940年代でした。最初は電気を絶縁するための布を開発する目的だったのが、それが不調に終わったため “Mistlon” ミストロンというギフト包装のリボンとして1948年に発売されました。
どんな製品なのだろうかと検索してみたら、当時の製品をオークションで売っている人がでてきました。なるほど1940年代っぽい大味な感じがいいですね。
いったん不織布を高い精度で開発する技術が確立されれば、あとは先程の特徴をいかしてさまざまな用途に応用することが可能になります。
たとえばこちらのフィルターは工場などで利用されますが、不織布の「織りがない」という特徴を活かしています。織られていないということは、不織布の凝縮度次第で、それ以上の不純物を取り除くのに使えるわけですね。
こちらは、たとえば漏れた重油などを吸い込み、吸着させるための専用の製品。このなかにも不織布が活用されています。
しかし、なんといっても不織布がその特徴をいかして花開いたのが研磨剤の分野です。表面を傷つけてはいけない場合、研磨剤を不織布に混ぜることで望みの柔らかさで効果を発揮できるというわけです。
そういうつながりから生まれたのがこれらの製品群。家庭で使うスポンジも含まれていますね。
こういった床掃除用のシートも、3Mのものは不織布に工夫が加えられているのでほかと比べてゴミの吸着率がよいのだそうです。
さらりと説明されると、そういうものだと思ってうっかり受け入れてしまいそうになるのですが、大事なのは1940年代に最初に3Mが不織布の研究を行っていた時に、「これは研磨剤に使えるな」などという目算は一つもなかったということです。
まさに「技術者が絶縁体に使えないと投げ捨てた不織布が、業界随一の研磨剤の礎を築いた」。でもこれは不思議なことでもなんでもありません。つながりを探す文化が会社内にあるなら、不織布の特徴を応用することは当然だからです。
床磨き体験。これは意外に大変!
せっかくですので、今回はこの巨大な床磨き用の強力ポリッシャーも体験させていただきました。
なんでもないように見えますが、高速に回転するフィルターが下にとりつけられているのですから、ポリッシャーは腕のなかで暴れてなかなか思うように動きません。
実際には磨きたい表面の素材などによって他種類のフィルターから最適なものを選んでいきます。普段自分が知らないだけで、掃除をしているプロにはプロのすごい技術と、それをサポートする製品群があったわけです。
まとめ
今回も、理系的にはたいへん楽しいひとときだった3Mイベントですが、今回は接着剤やテープなどに比べると、その凄さが伝わりにくくなっています。そしてこの「伝わりにくい」という点がまさにこのイベントの趣旨といっていいでしょう。
不織布という存在自体は、3Mが始めたものでもなければ、珍しいものでもありません。それは古代からありふれた布の一種でした。しかしその布がもっている特徴を知っていれば、これしかないというくらい、さまざまな応用方法が生まれてきます。
そして、このみえないつながりを生み出してゆくという過程は、天才のひらめきや才能溢れる人にしかできない神業ではなさそうです。
それは手元にある小さな研究や日々の発見のなかに封じられた小さな可能性を丹念に拾ってゆく真面目さにあるのです。
その真面目さが、3M の面白さなのです。
(補記)
3Mイベントについては第3回、第4回もあったのですが、これはまた後日に。こちらはもっとミクロで、わかりにくい、だからこそ他にはない興味深い世界へと切り込んでゆく話になります。
今後の3Mセミナーに参加されたいというかたは、ぜひFacebookで3M Japanのページを「いいね!」しておいてください。定期的に、次回の案内が流れますので、応募することができます。