デジタルな仕事場へと進化するEvernote。この「進歩」についていけるか?
一年に一回の Evernote EC4 カンファレンスが終了し、Evernoteが現在進めている最新の機能の話題がひと通りでてきました。
それにしても面白いのが、Evernoteがこれまでの「デジタルノート」としての機能をほとんど宣伝せず、むしろそれを使って何を生み出そうとしているのかという未来の話題が多かったことです。
ともすればこれは「わかりにくい」ということになりかねないのですが、よくみてみるとEvernoteの野心が「デジタルノート」の遥か遥か先にあることが見えてきます。
その最新状況についてまとめてみましょう。### 新しいウェブ版…白い、白い!
今日から使える機能としては、新しいウェブ版Evernoteのベータがあります。これまで、携帯サイト時代からの名残りを残していたごたついた感じが一掃されて、シンプルで白地の多いレイアウトになっています。
相対的に、ノートが表示されている部分が少なくなり、情報を閲覧してゆく場所というよりは、「何かを書き始める場所」という部分が全面にきています。
カード式の一覧がなくなったので、画面あたりの情報量が減ってしまったのが気になります。どんな情報があるのか見えない歯がゆい感じがまだあります。このへんはのちのち実装されるといいですね。
驚くのは、新規ノートを作って、本文を書き始めると左のパネルさえも消えて、フルスクリーンの作業場になってしまうところ。白い!
情報を操っているかのような幻想は捨て、仕事に没頭せよといわれている気すらします。これは、Evernoteの使い方を、作業オリエンテッドに変えようというメッセージに他なりません。
Evernoteは、他のアプリで作業をするために横に引っ張りだしておくものではなく、作業そのものをする場所を目指しているのです。
プレゼンモードの進化
「すべてのプレゼンが、セールスピッチのように営業感をもっていなくてもいいじゃないか」というのがEvernoteから繰り返し出てくるメッセージです。
まだあまり使われてないと思いますが、Evernoteのプレゼンテーションモード、これはEvernoteが自信をもっているだけあって、なかなかいい機能なんです。
プレゼンをする場合、ミーティングのたびに「資料 → (膨大な作業) → プレゼンファイル」という具合に、わざわざ見せるための資料を再生産しなければいけないことがよくあります。
Evernoteのプレゼンテーションモードは、従来のプレゼンソフトにとってかわるものではなく、「資料を直接プレゼンして、資料の上でミーティングをしよう」という本来のミーティング資料の役割を復権させる機能をもっています。
「人になにかをみせる」だけなら、資料を直接見せられればそれで十分ではないかという、いたって当然なことを実現しているわけですね。しかも同じ資料をパソコンから、iPhone、iPadなどからもできるのですから素晴らしい。
コンテキスト、Evernoteの背後にあるAI
さあ、ここからがとてもわかりにくい新機能になっていきます。プレミアム会員に今後提供される予定の「コンテキスト」はまさに目に見える機能ではないのでわかりにくい。
作業をしている際の資料集めは「記憶からの思い出し」「知っている人に聞く」「外部のソースを探す」のいずれかからやってきます。Evernote Context 機能は、その3つを同時にやってしまうことを目指しています。
一つ目はすでに集めたノートから、関連する情報をみつけること。二つ目は、Evernote Businesss のようにチームで共有している資料からみつけてくること、そして三つ目は、提携しているニュースソースから情報を自動的に提供すること。
これが、タイプするスピードで表示され、簡単に資料として取り込めるようにしているというのが、この Context 機能です。
特に外部ソースとしては、Wall Street Journal や、TechCrunchのようなウェブサイトと提携して、新しいニュースも、古いニュースも取り込めるそうです。
この機能はとりわけ感慨深いものがあります。3年前、Evernoteの情報量がこのまま増えると、データの量によって利便性が次第に逓減してゆくのではないかという記事を書いた際に、必要ないときに情報を忘却しておける機能こそが、今後のデジタルノートには必要になると書いたこと、そのものだからです。
頭の記憶なら、利用価値の低いものが判断の邪魔にならないように脳は自動的に忘却によって情報をキュレーションしてくれます。忘却は全てを洗い流す究極のキュレーションなのです。(象は羽ばたけるか。Evernoteの未来への漠然とした不安と期待)
もちろんこれがそこまで都合よく動作するかどうかは、実際にさわってみなければわかりませんが、Evernoteが単に「情報を集積する場所」から「自分に関連性の高い情報を整理する場所」に変わっているのは注目に値します。
これはいってみれば「逆Google」の構造をもっています。Googleが全世界の人間にとって情報を整理しておく場所なら、Evernoteはユーザーが自分で集め、重要だと思っている情報を、残りの情報から囲っておいてくれる場所になっているからです。
Evernoteの進化の必然。WorkChat
ここまでEvernoteが「作業場所」としての性格を全面に押し出してくると、必然となるのが、コミュニケーションの機能です。
「この資料をみてみて」「ここはこれでいいの?」「ここに加筆して」「ここに置いておいたから」
こんな単純なやりとりでさえ、現在はEvernoteの外側で起こっているために**「資料」と「会話」との間には断絶**があります。
ここで思い出していただきたいのが文書とチャットとの親和性を高めたQuipというサービスの存在です。資料そのものにチャットをつけてしまうことで、作業にともなうブレーキがなくなり、離れた場所にいるユーザーどうしでも円滑に資料作成ができるようになる特徴がありました。
Evernoteは共有はできますが、ユーザー間の意思の疎通は別の場所でやらなくてはいけません。Dropbox や他のツールを使うのでも同じです。「文章」と「文章についての会話」は Skype やチャットワークなどを使って別の場所で行う必要が生じます。(リアルタイム文書コラボレーションの限界を越える Quip の可能性)
作業場所としてのEvernoteにはあきらかにこのコミュニケーションの部分に欠落がありましたので、WorkChatはこれを補完したものといってもいいでしょう。
「すでにFacebookを使ってるから」「すでにLINEをつかっているし」という人もいると思いますが、EvernoteのWorkChatは明らかにこうした汎用メッセージアプリを目指したものというよりも、資料と会話を結びつけるためのものです。
資料に会話が紐づくことによって、資料の有用性が持続するといってもいいでしょう。「あの会話ででた資料だけど…」「さっき追加したあの画像だけど」という具合に、資料が人と人をつなぐのです。
スキャナーアプリの進化、Scannable アプリ
資料にスマートフォンを向けて写真を撮る。これはよくあるスキャナーアプリの基本動作で、そういう意味では、スキャナーアプリは、カメラアプリと大差がありません。
Evernote Scannable は、そうしたスキャナーアプリと一線を画しています。シャッターを押さなくても、カメラが連続的に撮影をおこない、何が資料であるかを判別して自動的にとりこんでゆく機能をもっています。
こればかりは何を言ってるのか、現物をみないことにはわかりません(笑)。すでにベータ版の申し込みが始まっていますので、ぜひ登録してみてください。
また、Scannable から ScanSnap Evernote Edition のデスクトップへの直接送信もできるみたいですし、ScanSnap を複数人で利用できる機能も準備されているようです。
Your Life’s Work という新しいメッセージ
このように、山のように新機能を用意しながら、そのどれもがこれまでEvernoteが自分の本分としてきた「デジタルノート」そのものではなく、デジタルノートの活用を加速するための土台作りになっているというのが、今回のEC4の面白いところです。
その意味するところは、Evernoteはもうデータの集積所ではない、Evernoteこそが作業の起こる場所なのだ、という大胆な軌道変更です。
ただ、この急激な変化には危うさも伴います。ただでさえ最初はとっつきにくいEvernoteが、さらにわかりにくくなるばかりでなく、既存のユーザーも置いて行かれることにならないか? という危険。
また、これらの新機能の多くがまだ開発中で、リリースが間に合っていないという危機感。Evernoteはまさにいま、次のステージにのぼるための大変革の途上にあるのです。
でも個人的に、私は数年前ほどEvernoteの将来を悲観していません。デジタルノートがこうして作業の場所へと進化することはいってみれば必然だからです。
これまでアナログな世界の延長線上でなんとなく使っていた、「ファイル」という概念、「スライド」という形式。そういったものが、100%デジタルで集められ、100%デジタルで活用される世界にシフトするなかで、大きな変化を迎えつつあるのです。
そしてEvernoteが、そのフロンティアを切り拓いているのです。