夢を口に出す、そして不完全な一歩を踏み出す。Jadah Sellnerさんの炎のような基調講演 #WDS2014
それはすさまじい始まり方をする基調講演でした。
“I encounter every lesson in life on purpose” 「私は、人生の与えるすべての教訓に意図的に向き合う」の一行から始まる一片の詩に、これまでの人生の挫折や虐待、希望や幻滅などを凝縮して朗々とした声で彼女は唄い始めたのです。
いきなり、何の説明もなく韻を踏んだ文章で講演が始まるので私はこれが彼女のスタイルなのかと最初は受け止めきれませんでしたが、やがてこれが大きな困難を前にした彼女がほとばしるように書いた詩なのだと理解できました。
そこには若い彼女がどのように愛を求め、そしてそれによって傷つき、世界においてどんなに孤独なのか、しかしそれでもそれを教訓として前に進もうとしているのかが、生々しい傷口のようにうたわれていました。
やがて詩の朗読を終え、会場が拍手に包まれたのちに彼女は自己紹介をします。「こんにちは。私は Jadah Sellersで、SimpleGreenSmoothiesという会社を経営しています。そして私は Dreamer です」### ものを売らない。ライフスタイルを提供する会社
Jadah さんの会社は名前も不思議ですがやっていることも不思議です。SimpleGreenSmoothies、つまり「簡単なレシピで作れるグリーン・スムージー」を毎日作り、飲む人々のコミュニティを育てている会社です。
グリーン・スムージー、つまりはほうれん草をベースに、そこに果物やアーモンドバターなどを好みで加えてミキサーにかけた緑色の飲み物なのですが、大事なのは彼女の会社はそれを売っているわけではないという点です。
あくまで、彼女のビジネスはグリーン・スムージーのレシピを提供し、健康のためにこれを毎日飲む人々のコミュニティを広げ、育てることに重きをおいています。そのために使われる主なツールはブログであり、Instagramであり、Pinterestなのです。
写真はプロの手が入っていますし、レシピも素晴らしいものがそろっているのですが、あくまで作るのはサイトにやってくる人々です。彼女の会社はものを売るのではないのです。健康的なライフスタイルを提供し、そのために一歩を踏み出す選択をした人々に集うことが出来る場所を提供しているのです。
夢を思い描き、不完全な一歩を踏み出す
しかし彼女も、最初からグリーン・スムージーに行き当たっていたわけではありません。ここにコミュニティが存在すると思って始めたわけではなく、そこに至る道は偶然だったと述懐します。
貧困にあえぎ、夫婦でどうすればいいのか苦悩していた時期もあったそうですが、そんなときに彼女がとった方法は「夢を口に出す」「夢を紙に書いてみる」ということでした。
「月収にして◯◯ドルを達成したい」「娘のために時間を」といった具体的で切実な願いばかりでしたが、そうして口にだしてみることで不思議と集中力が得られ、いまではそれをすべて達成できていると自身がもてるところまできているそうです。
しかし、それまでには2つのビジネスを起業し、廃業してというプロセスも必要でした。託児所のサービスを開いたもののうまくいかなかったり、サイトを作ってはみたもののの運営がうまくいかなかったといったこともあったそうです。
このことを Jadah さんは**「Take Imperfect Steps」=「不完全な一歩を踏み出す」**ことと表現します。
グリーン・スムージーも、ライフスタイルについての情報提供を行っていたサイト上でおこなった小さな試みにすぎませんでした。Instagram にスムージーの写真を掲載し、そのレシピをブログで紹介する。たったそれだけのことですが、読者の反響が大きかったので次第に、次第に、それを広げ、独立したビジネスにまで発展させたのです。
不完全な一歩から歩み出す5つのルール
「この聴衆のなかでいいアイデアが浮かんだのでドメインまで取得したけどそこで止まっている人はどれくたいいますか?」と講演中に Jadah さんは呼びかけました。
会場の大勢が手を上げ、どっと笑いが沸き起こります。そう、ここにいる人々は大きな夢を描いて行動することも、その難しさも知り尽くした聴衆です。
Jadah さんは WDS の聴衆の多くがこうしたインターネット・ビジネスを営んでいることを念頭に、自分自身の成功を5つのルールにまとめました。それは:
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常に、極限まで集中したアクションを起こすこと
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好奇心を失わず、どの試みがうまくいきつつあるのか耳を澄ますこと
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自分のコミュニティに対して奉仕すること
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コミュニティとのやりとりの濃度を極限に高める
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メトリックは気にしない。コミュニティへの愛を優先する
というものです。とても大事なのは 2 の項目で、なにかを始めた時にすべては “Imperfect Step” であることを受け入れて、どれがうまくいくのかはわからないという態度を取り続けることです。
えてして私たちは自分たちの思い描いたプラン通りに物事をすすめようとして、実はそのプランの本流の部分ではなくて、別の場所にチャンスがあることを見落としがちです。好奇心を保つことは、そうした見落としを防いでくれるのです。
コミュニティに耳をすませる
Jadah さんの講演は力強く、起業家精神に満ちていましたが、その一方でシニカルな見方も可能です。これは彼女がグリーン・スムージーでたまたま成功していたからこそ「成功譚」になっているだけで、やっていることはまったく同じでも失敗していた可能性だってあったはずだという「成功バイアス」を警戒する視点です。
ここに、先ほどの「好奇心」と「コミュニティ」という要素が入ってくるのだと考えるとよさそうです。グリーン・スムージーは彼女が何百と試みたことの一つにすぎません。そこに「なにかがありそうだ」と感じ取ったのが彼女の好奇心であり、そのインスピレーションを与えたのはグリーン・スムージーに大きな反響をよせたコミュニティの側だったのです。
自分のサイトにやってくる人々の声に好奇心をもって耳をすますこと。それは、「自分の思った通りに人々が動いてくれるはず」という思いあがりとは正反対の、人々への純粋な興味と愛情です。
Jadah さんの講演は現在成功している(そして未来も成功し続けるという保証はない)起業家としての現実に根ざしたものでした。現実に根ざした結果、そこに夢をみるための好奇心と人々への愛情という要素が入ってくるのは心強いことです。
そしてそうした彼女だからこそ、成功は偶然ではなく、必然であったのではないかとさえ思えるのです。
WDS の日本コミュニティ
さて、こうした話をしていると「日本でもこうしたことはできないか?」という気持ちが掻き立てられてくるのを感じます。読者のみなさんのなかにも、なんだか共鳴するものを感じた人がいるかもしれません。
こうした WDS 関連情報をほしいという人むけに、World Domination Summit に関連した日本の Facebook グループ「Friends of WDS Japan」を開いています。
来年の WDS にむけた情報も提供しますし、日本におけるイベントの企画などもここで行いたいと思っていますので、興味があればぜひご参加ください。