365日の習慣の鎖を作るサインフェルド・メソッド
ジェリー・サインフェルドといっても、日本では直接知っている人はいないかもしれません。俳優、コメディアンであり、脚本家という一面ももつ彼は、シチュエーション・コメディー「となりのサインフェルド」で90年代後半に有名になった人物です。
コメディアンというと、一見、面白い話が泉のように湧いてくる人だと思われがちですが、実際はネタを作るために背後で膨大な時間を費やしていることは周知の事実かと思います。サインフェルドも例外ではありません。
そんな彼が常に面白いネタを作り続けるために実践していた方法が、常に、決して途切れることなく毎日ネタを書き続けるという「鎖を断ち切らない」という手法でした。
これだけ聞いていると「ふむ、習慣化の話ね」という感じですが、実はサインフェルドの手法にはもう少し具体的な、実践のコツが含まれています。
習慣化に悩んでいる人にとっては一つのヒントになるかもしれません。### 習慣化のまえにある「アクション」の鎖
サインフェルドさんは毎日ジョークを書くことを自らに課すために、大きな紙に365日の日付が書かれた一年カレンダーを用意して、ジョークを書くたびに日付に大きな「☓」を書きこみます。
「その日のジョークを書くたびに、その日に大きな「☓」を書き込む。数日するとそれは一つの鎖になる。鎖をそのまま続ければ、どんどんと長くなる。数週間もすれば、鎖を見るのが楽しくなる。次の仕事は、鎖を断ち切らないことだ。」
ここにはちょっとわかりにくい、秘密が隠されています。
この話をきいて「おお、習慣化が大事なのだな。自分も毎日一冊本を読む習慣をつくろう」という具合に実践してみても、たいていは失敗に終わります。たいていの人は、真面目な本を毎日一冊読むだけの時間を確保するのも大変でしょうから。
注目したいのは、サインフェルドさんにとって、ジョークを書くことは割合小さなアクションなのだという点です。ある日はものの一分で片付くでしょう。ある日は1時間唸りながらやることになるかもしれません。ともかく、彼にとってそれは高い頻度で実践している「アクション」なのです。
毎日繰り返せるほど粒度のこまかいアクションだからこそ、鎖を作る際に無理がありません。少し意識すれば、それは彼にとっては自然なことなのです。それを踏まえた上で鎖を断ち切らないように続けるわけです。
7日間なり、10日間なり、うっかり続いてしまえば、あとは「鎖を断ち切りたくない」というモードへとギアがシフトします。つまり「習慣化しよう! → 続かない → 失敗」ではなくて、「無理のないアクション → 続けてみる → 鎖を切りたくない → うっかり習慣化」というギアの入れ方です。
サインフェルド・メソッドのテンプレート
サインフェルドさんのアドバイスは、視覚的でもあります。「◯◯日続いたよ」という数字は、たとえば「53回」と「54回」との間にあまり心理的な違いはありません。しかしカレンダーのうえで「☓」が続いて、鎖がどんどん長くなる視覚的な効果が、「これを切りたくない」というインセンティブにつながるわけです。地味ですが、これはわりと大きい。
そのために、Macのカレンダーの年間表示を使ってもよいですし。
グルグルとまわる4ヶ月分の鎖を作れるこうしたテンプレートを作った人もいます。これは1、2という具合に月曜日から日曜日まで色を塗って使うタイプですね。
しかし形はなんだっていいのです。視覚的な鎖がみえるなら、それだけでよいのですから。
とにかく重要なのは、アクションの選定
ともかく習慣化の話題で、たとえば「早寝早起きをしよう! → 失敗」という傾向が多いのは、一言でいうわりには大規模な生活の修正だからです。
「早寝早起き」といわれても早寝のためにいつまでに職場から帰ればいいのか? いつまでにその日の家事を片付ければ何時に眠れるのか? 子供が夜泣きで起きた場合のプランBは? 朝まで何時間ある? 眠る時間の不安定さを朝起きる時間をフィックスして吸収できる? 夜の作業を朝に回して大丈夫? といった要素がからみます。これは「アクション」とはいえません。
ここでまず鎖をつくりたいのならどういう選択肢があるでしょうか? 「就寝時間を0時までにする」がアクションとして妥当な人もいれば、まずはゆっくり眠る習慣から、という人もいるでしょう。
「ブログを毎日書く」「毎日読書」「毎日運動」といった、ありがちな習慣も、どれほどの行動を想定しているかによっては作業が肥大化して鎖にはしにくいかもしれません。私もいつも鎖を切ってばかりの人間なので、そのあたりは経験済みです。仕事から帰ってブログを毎日、ってけっこうたいへんですよ(笑)。
逆説的かもしれませんが、「習慣化できる強い人間になろう」が答えなのではなく、弱い自分でも続けられるものを試しに拾ってみるということなのでしょう。
そうすれば、「鎖」は我慢して越えるべきハードルではなくて、心理的に次の一歩を踏み出す後押しをしてくれる味方になるのです。