「今こそ読みたいマクルーハン」を今こそ読むべき理由

マクルーハンのことは、いずれどこかで、何らかの形で学ばなければいけないとずっと思っていました。

マーシャル・マクルーハン。カナダ出身の英文学者で思想家。コミュニケーション理論、メディア論の大家として1960年代に活躍し、「メディアはメッセージである」「地球村」などといった言葉や概念を生み出した人物として著名であるものの、実際のところ一般の読者が何の用意もなしに原典にあたるのはなかなか難しい書き手かもしれません。

それもそのはず、マクルーハンは体系的でわかりやすい実証的な理論として自身の思想を提示してはおらず、短い警句のような言葉や、概念を実験的に提示することで自身の考えを表明する、いうなれば反・実証的な手法を用いることが多かったからです。

これはマクルーハン自身の魅力でもあり、彼の思想がいまなお活力を得ている力の源泉でもあるのですが、これから学ぼうとしている時間のない人には困った話です。

そんなマクルーハンを平易な言葉で解説しつつも、いままさにネットと社会を賑やかせている事件を同時に読み解く楽しい解説書「今こそ読みたいマクルーハン」を Polar Bear Blog の小林啓倫(@akihito)さんが刊行されています。まさに今こそ読みたい、ホットな一冊です。### なぜマクルーハンを「今こそ読みたい」のか

でもそもそも、なぜ1960年代に活躍し、1980年に亡くなられた思想家について知る必要があるのでしょう? もっと最近の思想家のほうが、ネットを含めた社会を上手に説明できるのではないか? そんな疑問は当然浮かんでくると思います。

しかし本書を読めば、いかにマクルーハンの「メディア」に対する洞察が時代を先駆けていたか、そして「メディア」というものの本質を捉えているために現在でも有効な思考のツールを与えてくれるのかがわかるはずです。

ここでいうメディアは、新聞・テレビといったマスコミに限らず、書籍、携帯電話、ネット、SNS、ブログなど、情報を媒介するものという、広い捉えられ方をする存在のことをを指しています。そしてこうした「メディア」のもつ力学が理解できると、社会の実にさまざまな様相が理解しやすくなります。

実際、本書ではマクルーハンの思想を説明する過程でさまざまな話題を俎上に乗せて、現代的な意義を示しています。ビッグデータ、キュレーション、ウェラブルデバイス、無人飛行機、拡張現実、LINE、ネットのデマ、ツイッターによる炎上、トゥギャッター、フィルターバブル、ソーシャル・メディア、リアルタイム・ウェブ、アラブの春、ネットの陰謀論…。

たとえば、アルバイトが不用意に投稿したツイッターのつぶやきが炎上を引き起こすという事件が今年は繰り返し発生しましたが、本書ではそれを「携帯電話というメディア」のもつ作用なのではないかと、マクルーハンがもし存命ならしたかもしれない解釈を彼の言葉から導き出します。

こうした一つ一つ現代の解釈が実に心地よいくらい明快で、マクルーハンの思想への入り口を開いてくれているのが本書の魅力です。

なぜいま、メディアについて知るべきなのか?

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マクルーハンが面白い人物なのはよいとして、それではなぜ「メディア」について知らなくてはいけないのでしょうか?

その疑問に答えるために、小林さんは本書の冒頭からマクルーハンの最も有名で誤解される格言である「メディアはメッセージである」という言葉に切り込みます。そこからメディアが人間に与える影響、そしてこれまた難解な概念である「ホットなメディア」と「クールなメディア」というマクルーハンの思想を解説した上で、なぜメディアは社会を変えうるのか? という結論にむかって突き進んでいきます。

思い出してもみてください。ツイッターやFacebookが生まれる前の世界は、アルバイトによる炎上も、アラブの春でみたようなソーシャル・メディアが国を動かすような出来事もありませんでした。では、ツイッターやFacebookの何がそれを可能にしたのか? というのは実に現代的な意義のある、ワクワクする話題だといえるのではないでしょうか。

マクルーハンは灯台のように、メディアを読み解く一筋の光としていまも輝く存在です。そしてメディアの力が全世界を覆いつつある今こそ、マクルーハンを読む最適なタイミングといってもいいのです。

眼に見えない空気を風が体感させてくれるように、本書を読めばあなたは肌でこれまでなんとなく感じていたメディアの「力」を、より鮮明に理解できるようになるはずです。おすすめ!

p.s.

本書では平易なツイッターやFacebookの例が随所に登場していましたが、もっとマニアックな議論についても聞いてみたいと思っていましたので、著者の小林啓倫さんを「ライフハックLiveshow」にお招きしたところ出演を快諾しただけました。

11/17(日)午後22時から、これは必見の回になりそうですよ!

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堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。