アップル基調講演を読み解く2つのポイント。そしてコンテンツをつくる現場となったiPad
先月のiPhoneイベントに続き、期待されていた新しいiPadの製品発表イベントがありました。
新しいiPadの名前は iPad Air、そして発表されたRetina ディスプレイの新しいiPad mini、MacBook Proの新しいモデルにMac Pro。
ハードウェアだけでも盛りだくさんなイベントであったにもかかわらず、新しい OS X Mavericks、新しい iLife、新しい iWorkと、ソフトウェアの更新も目白押しです。iLife/iWorkについてはiOS版も同時なのですから、全社をあげた開発の統制の凄まじさに驚きます。
一方で、iPad Air には機能的に目新しさはないなど、アップルらしい爪の研ぎ方ではなかったという印象も残ります。
実際、これはアップルの戦い方が変化しているのが見て取れる発表会だったのです。### 基調講演を読み解く二つのポイント
今回のアップルイベントで特徴的だったのが、登壇者が口ごもり、台詞を噛んでしまうほどのスピードの話題展開と、もう一つは「無料」のキーワードでした。
開始早々 iPhoneの売り上げから話は始まり、息をつく間もなく新しいMacBook Pro、iTunes store、アプリなどなどについて一気に話が展開していきます。iPadの話になるまでにたった一時間で新製品とデモがすべて終わるという急ぎぶり。
そしてその途中で何回も登場するのが「無料」のキーワードです。OS X Mavericks が無料。iWorkが無料。iLifeが無料。そして全て本日提供といったように。
無料ということは OS そのものとオフィス的なアプリと、趣味と人生のアプリといったものはもはやアップルにとって主戦場ではないということでもあります。
OS X と iLife / iWork をマイクロソフトの製品と比較していた時代は終わったのです。それどころか、今回の基調講演では他製品への言及(たとえば Androidなど)は一切ありませんでした。
トータルな「経験」で勝負
一方で iPad Air は華々しい機能追加はないものの、薄さ、軽さ、速度の面で着実な進歩を続けています。これをつまらないという人もいますが、第二世代 iPad、iPhone 4s でもこうした議論は繰り返されてきたことを思い起こさないといけません。
ハードとソフトの総合力、そしてOS と基本アプリレベルでの無料の戦略。この狙いはなんでしょう? それはティム・クックが iPad Air の紹介として流した動画の中に示されています。
さまざまなビジネス現場やスポーツの現場、先進国から途上国、大人だけでなく子供の手の中でも世界をかえつつあるインターフェースとしての iPad というビジョンです。
この点を受け入れたなら、iPad を有用たらしめているのは Mac、iLife / iWork であり、それをつないでいる iCloud であるという文脈へはあと一歩です。
製品そのものの新規性あるいは性能はすでに達成されたので、その総合力として漸進的に進歩していくトータルなエクスペリエンスとしてのアップルの製品とアプリを彼はプロモーションしていたということになります。
しかしもちろん Android をはじめとする競合他社は別の世界観を描いていて、これらの世界観の戦いがこれからは顕著になるでしょう。
変わるiPadの立ち位置
もう一点、今回面白かったのはiPadがもはや「コンテンツを消費する場」ではないということです。
iLife/iWork あるいはその他のアプリによって、音楽であれ、文書であれ、ブログであれ、デザインであれ、アプリがそろってきた今こそ、iPadでコンテンツを作り発信していくことができると強調されていたのも一つの変化でした。
コンテンツを作る立場から考えると、とたんに iPad Air の計算能力の高さが魅力的になります。
iPad Air がほしいか iPad mini Retina にしようかという疑問は、**iPad Airを使ってコンテンツを作りたいか、それとももっと文房具的な iPad mini Retinaを買いたいか?**と置き換えることも可能なのです。
私はといえば、iPad miniの使いやすさをとってiPadを使うのをやめてしまった人ですが、こうなってくると迷ってきます。「まよったらりょうほう」「まよったらりょうほう」と肩で囁いているのは天使か悪魔なのか?
急ぐことはありませんので、店頭で触れる日を待とうと思います。