夢はいつも小さな火花から始まる。Darren Rowse 基調講演:WDS2013まとめ(2)
Darren Rowseというブロガーをご存知でしょうか?
彼はProBlogger というブログの著者として最も知られており、ブログで生計を営む方法論について2005年頃から休みなく更新しています。
Darrenさんのブログの魅力は戦略的にブログで収入を得ようというプラグマティックな部分と、「読者が喜ぶ良いブログを全力で作ろうじゃないか」という心意気の部分のバランスが見事な点です。
実は Lifehacking.jp も、設立の際のモデルとして ProBlogger を想定していましたし、いまも大いに参考にしています。なので、WDS2013 でDarren Rowesさんが登壇すると聞いて期待に胸は高鳴りました。
しかし彼は何について話すのでしょう?
WDS の壇上でプロブログとSEOの話をするなんて陳腐なことはあり得ません。Darrenさんはかわりに心の奥底の世界を聴衆に広げて見せてくれたのでした。### 夢みがちな少年から青年へ
「子供の頃の夢はスーパーマンになることだった」Darrenさんはそう語り出します。
内向的な子供だった彼にとって、スーパーマンは独特なアイデンティティを思い起こさせるのでした。自分と対峙し、人々を守る強いヒーローとしてのスーパーマンです。
もう少し成長すると、Darrenさんは思春期を迎えたクラスメートがブルック・シールズの写真を交換しているのをみて、「これは商売になるのでは」とひらめいて母親の婦人雑誌の写真を片っ端から切り抜いて友人に売ったといいます。
「僕の起業家としてのスタートは、ブルック・シールズの写真の売人だったんだ(笑)」
学校に定規や文房具をもってくるのを忘れる人が大勢いることに気づくと、文房具を安く仕入れて忘れた子に売るといった試みもしたそうです。
この時点で起業家になりたいという夢を抱いていたDarrenさんですが、さらに人生がすすむにつれてその夢から次第に遠ざかり、自分から何かを追い求めることはしなくなくなります。
そして結婚も考えていた当時のガールフレンドに「Darren、私は普通の人生は送りたくないのよ」と言われたとき、彼は自分では自分のことを「夢みる冒険者」だと思っていたのに、現実はそうではないことを引き裂かれるような痛みとともに思い知ったのでした。
「その日、僕は自分の夢を真剣に受け止めないといけないのだと気づいたんだ」とDarrenさんは言います。「そして少しずつ、それにむけて歩む以外にないのだと心に決めたんだ」。
htmlも知らないブロガーからプロへ
転機は数年後、注意してなければ気づかないほど小さな形でやってきます。友人が彼に「このブログをみてみろよ」とリンクをメールしてきたのです。
「ブログ? なんだそれは?」と思った Darren さんは、ブログがもっている何かに心を吸い寄せられました。
そして間もなく、自分自身のブログを開始したのですが、その時点では HTML についてほとんど知識がないので文章を太字にする方法もわからないほどでした。
アフィリエイトやadsenseの登場でブログが収入になることに早くから気づいていたDarrenさんですが、個人ブログから本当にビジネスとしてブログを考え始める転機となったのも小さな出来事がきっかけでした。
カメラのレビューをした際に、その記事だけが読者の反響や、収入のうえでの動きが違っていたのです。「カメラのレビューだけを行うサイトを作ったらどうだろう」当時そうしたテーマ性のあるブログはまだまだ少なかった時代にDarrenさんはこの鉱脈に気づいて、後に Digital Photography Schoolというブログに成長するブログを開設します。
週にコーヒー一杯分だった収入も、次第に大きくなり、ProBlogger をはじめることによって彼は「いつかブログで生活できるかも」と口にしていた夢が現実に近づいてきたことを知ります。
夢の火花を見失わない
もちろんDarrenさんのプロブロガーとしての成功はブログ黎明期の先行者利益に負うところが多いともいえます。いま同じ事をしても同じ結果はとても得られないでしょう。
しかしなぜDarrenさんがその夢を追い求めることができたのかという部分には、多くの人に参考になる真理が含まれます。
「のちに大きな結果を生み出すことになった全ては小さな火花から始まったんだ」とDarrenさんはいいます。
たとえば電子書籍による商材の製作も、最初は単なる思いつきで、それを作るために一日に15分ずつしかかけられない日々を半年続けて一冊の本を作って売ったとき、あまりの反響に「なんでもっと始めなかったんだろう?」と自問自答したそうです。
しかしもちろん、その最初の「やってみようか」という思いつきの火花を15分ずつ育てたところに成功の理由があるのです。
「何が君にエネルギーを与え、他の人にエネルギーを与えることなのか。それを念頭に小さなアイデアの火花を機会だととらえて夢を成長させるんだ」
Darrenさんはとてもこれが世界のトップブロガーなのかとは思えないほど純朴な口調で呼びかけました。
「もしかしたら少し睡眠を削ってやらないといけないかもしれない。でもやる価値は十分すぎるほどなんだよ」
帰ってきたスーパーマン
ここでDarrenさんは基調講演ではあまりない、予想外なことをします。
「夢を現実にするというテーマにふさわしい、歌を作ってくれた人がいるのでステージに招待したい」といって Clare Bowditch さんを招いて、彼女の “Amazing Life” のパフォーマンスが始まります(WDS壇上の動画ではありませんが、YouTubeにありましたので下に貼り付けておきます)。
さまざまな冒険をしたい、さまざまなことをしたい、でもまず小さな何かから始めることが Amazing な人生の始まりなのよ、という Clare さんの歌が聴衆に染み入り、Darrenさんが戻ってきたとき満場は驚きます。
スーパーマンだ!
このパフォーマンスは、もちろん「自分はスーパーマンに匹敵するプロブロガーだぜ!」ということではありません。
スーパーマンは孤独な自己と対峙する繊細なスーパーヒーローです。その強大な力は常に危うい均衡のうえに成り立っているのです。
「自分の夢を真剣にうけとめてほしい。そうして小さな一歩を今日この日からとりはじめるんだ。夢をみるというのは、そういうことなんだ」とDarrenさんは言います。
そう、これは少年だったDarrenの夢もまた、形をかえて実現したということなのです。
どんなに小さくても、自分にできることを引き受けて少しずつ歩むことで、人は夢をかなえることが可能なのだという証なのです。
そしてそれはどんなブログ術やマネタイズの話をしていただくよりも、価値のあることだったのです。
p.s.
Darrenさんの講演については今回いっしょに参加していた Yukari Peerless さんの記事も読み応えがありますのでぜひどうぞ!