「人生を変える小さな習慣」のすすめ

30days 「習慣によって人はなんと変わることか!」 (シェイクスピア “ヴェローナの二紳士” 第五幕四場)

ライフハックとはなんですか? と聞かれると、私は「人生を変える小さな習慣です」と答えています。

もともとのライフハックの意味は仕事を楽にするちょっとした工夫であったり、裏ワザだったりするのですが、そうした小手先のことがやがて習慣として人生に固定され、いつかはその人の人格 ー character ー と不可分になってしまうようなもの。人生をハックしてしまう小さな習慣。それだけが、私の興味をひきつけます。

しかしひょっとして、この「人生を変える」という言葉はあまりに濫用されているかもしれません。

安易に「人生を変える」と口にする場合、どことなく世界を「人生を変えられた人」と「まだ変えていない人」の偽りの二元論に落としこんで不安をかきたてているケースも見受けられます。「あなたには何かが足りない」こう言われてフリーズしたまま待っていると、鞄のなかから人生を変える高価な薬が登場することうけあいです。

私が伝染させたいのは、もうちょっと気軽で楽しい習慣です。こんなことで何かが変わるのかと疑いたくなるようなものが、やがて大きな変化を生み出す痛快。超人になる必要も、大いなる目覚めも必要ありません。

どうでしょう、興味ありますか?### 7つの習慣、7ヶ月のチャレンジ

もっとも基本的な「小さな習慣」はなんでしょう? これについては Zen Habits の Leo が書いた「7 Little Habits That Can Change Your Life, and How to Form Them」がとても参考になります。

Leoはその7つを以下にまとめています。横につけたのは私の注釈です。

  1. ポジティブ・シンキング: ポジティブになれ!というよりも、自分を卑下し、わい小化する言葉を避けること。つまりは自分自身の価値を意識すること

  2. 運動: 運動でダイエットができるといった成果よりも、まずは体を意識する

  3. シングル・タスク: たくさんのことはできないと気づくことで短いスケールの時間を意識する

  4. 目標を一つに絞る: なにかを実現するにはそれなりに時間がかかると知ることで、より長い時間を意識できるようにする

  5. 無駄を避ける: 言い換えると、重要なものとそうでないものを意識できるようにする

  6. 親切さ: 他人に対する言葉や行動を意識できると、やがて他人が自分を扱う仕方も変わる

  7. **ルーチン化: **そして最終的に、意識してやってきたこれらのことを無意識にできるようにしてしまう

7つはこのとおりでなくても、この順番でなくてもよいでしょう。でも意図はわかると思います。

つまりは年月と日々の忙しさのなかで自動化してしまった自分自身の扱い方を、もう一度意識の上に浮上させるわけです。

意識できたものは記録できますし、評価できますし、操作することも不可能ではありません。

30日のチャレンジ

上の「小さな習慣」は人格を陶冶するものが多いのでちょっと肩肘張りすぎと思うなら、それを関連する楽しい活動に振り替えてしまえばいいでしょう。Leo の7つの小さな習慣を「授業」とみるなら、「部活」から学ぶことだってできるはずです。

ここでやはり思い出すのは以前紹介した Google の技術者である Matt Cutts の「30日チャレンジ」です。もともと Google I/O の Ignite トークだったのですが、その後あまりに評判で TED でも同じ発表をしていますね。

たとえば「運動」は「毎日1万歩」歩くに変えてもいいでしょうし、「親切さ」は私が昔やったみたいに「どんなにいがみ合っている人にも挨拶をするゲームを30日だけやってみる」でもいいでしょう(結果、その人は今でも普通に話せる味方になりました)。

絵を30日描いてみる、写真を30日とってみるというチャレンジも、自分がこれまでずっとやってみたかったことを意識化することを助けてくれます。

「いつかやろう」ではなく、たった30日でいいので一歩踏み出して意識の上に浮上させることができた活動は、少しずつ根をはります。それが習慣化して、人格の一部になる始まりなのです。

Matt Cutts のこの言葉が私の耳には楽しい鈴のように響きます。

小さな持続可能な変化であれば 続けられることをするなら それは身につくということです 大きな並外れたチャレンジというのも悪くはありません きっと すごく楽しいことでしょう でも身につきません

(中略)

私が皆さんにお聞きしたいのは 「何を待っているの?」ということです 好むと好まざると 次の30日間は 過ぎていくのです そうであれば ずっとやりたかったことを 試しにやってみましょうよ 次の30日間で

小さな習慣を助けるシステム

30日のチャレンジを一人でやるのもいいでしょう。しかし大勢でやればさらに成功する可能性は高まります。ちょっと真剣すぎる、マジすぎるチャレンジをもっと楽しいネタにするのにも、人とのやりとりは役立つかもしれません。

それを支援するために最適なのが、今年初めに紹介した習慣化を支援するサービス Lift です。

Lift

Lift はいわばツイッターのように「読書」「ブログ執筆」といった習慣をフォローして、実践するたびにチェックインすることができるサービスです。

実は紹介した当初は日本語まわりがあやしかったのですが、その後中の人とやりとりをしてバグをつぶしてきた結果、日本語の習慣、コメントなどがほぼ文字化けなしで可能になりました!

このサービスを使えば、活動を記録することも、知り合いと共有することも、ツイッター・Facebookといった SNS に投稿することも簡単になります。

Google+ コミュニティ「30日チャレンジ」

Lift は短文のコメントに特化していますので、より長文で議論をしたり、コメントをしたい人のための「30日チャレンジ」コミュニティを Google+ で作成してみました。

とりあえず私はこちらで、自分の30日チャレンジとその進捗について共有していこうと思いますので、ぜひチェックしてみてください。

今後ブログでも定期的に「小さな習慣」についてフィーチャーする記事を書きますので、その都度、じゃあ3日だけつきあってあげようかというくらいに読んでいただければ幸いです。

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人生を変えるというとなんだか衝撃的で、野心的で、ちょっと自尊心をくすぐるようなものを思い浮かべがちです。きっとそういうものも大事なのでしょう。

しかし Lift の人気の習慣をみてみると、なんとたくさんの「小さな習慣」があるのかと目を見張らずにはいられません。

「より歩く」「デンタルフロスをする」「タスクリストを使う」「0時までに眠る」「サプリメントを飲む」「朝食をとる」「笑顔で過ごす」「伴侶に愛していると言う」「姿勢を正しくする」「親に電話する」「知らない人と会話する」「感謝する」「祈る」「立ち止まって人生を楽しむ」

そう、これらは今日この日から、多くの場合は投資ゼロで、一歩踏み出すだけでできることばかりです。しかし繰り返し繰り返し続けた結果行き着く先は素晴らしく豊かです。

「人生を変える」というのはもしかしたら大仰で偉そうな表現なのかもしれません。

誰に言われるまでもなく、あなたはすでに変わっていたのです。すでにそれを欲していたのです。

あとは小さな一歩を踏み出すだけ。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。