Pocketボタンが可視化する「見えないバズ」とウェブコンテンツの新しい指標
ブログの記事やウェブサイトにアップしたコンテンツはPVという形以外にも、ツイッターにつぶやかれたり、Facebookでいいね!をされることでどれだけ「バズ」しているかがわかります。
しかし 1. 興味をもって、2. 読むつもりで保存して、3. n日後に実際に読んだという「見えないバズ」はどのようにして把握すればいいのでしょうか?
その一つの答えを「あとで読む」サービスの Pocket (旧Read it Later)ボタンと、Pocketのパブリッシャーツールが提供してくれています。### Pocketボタンの数字の「おかしさ」
すべては朝、みたいもん!のいしたにまさきさん(@masakiishitani)からSkype経由で「Pocketボタンを設置してみてください、数字が知りたい」と連絡をいただいたところから始まりました。
なんだか興味がありましたので、さっそくブログに先日発表されたPocketボタンを設置してみると、あきらかに数字が「おかしい」ということに気づきました。
*堀「6時間前にアップした記事のつぶやき回数が20回なのに対して、Pocketの数字はすでに110にもなってる…」
いしたに「あー、やっぱり。予感的中」*
つまり読者のうち、「興味をもった」けれどもツイッターでつぶやいたりFacebookでいいね!を押すようなパブリックなアクションは取らず、「あとで読む」というボタンを押した人は前者をはるかに越えて存在していて、それはこれまで見えてなかったのです。
調べてみるとこの数字は系統的に「つぶやき数」「はてなブックマーク数」「いいね!数」「Google+1の数」とも違いました。
試しにLifehacking.jpの過去20記事についてすべての数字を並べて積み上げグラフにしてみると、この数字が飛び抜けて大きいことがわかりました。面白いことに:
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たしかにPVが多い、はてブ数が多いような人気記事は比例してPocket数も多い
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でもPVで割り算して規格化してみると、実は「はてブ」「つぶやき」「いいね!」が少ない記事でもPocket数が標準偏差を越えて多かったりするケースも無視できない数存在する
ということがわかりました。Pocket数、これは何を表しているのでしょう?
セーブランク vs インパクトランク
Pocketにはパブリッシャーツールも存在するので、こちらも導入してみると、この数字の意味がもう一歩先まで見えてきます。
パブリッシャーツールを使うには、まずウェブサイトを登録しないといけません。ブログURL、名前、ツイッターアカウント、連絡先などを入力して、ウェブサイトを追加します。
するとサイトの認証を 1. HTMLファイルをアップロードするか 2. metaタグを追加することで求められます。手軽ですので html ファイルのアップロードをすませて verify を行うと、数時間で結果が表示されます。
さまざまな情報が表示されますが、特に注目したいのがこちら、Pocketからみた過去30日の記事の impact rank と saved rank です。
Saved rank は単純に、どれだけ Pocket で保存されているかという数字のランキングになります。
しかしこの saved rank と連動していないランキング、impact rank は「どれだけ保存されたか」だけでなく「どれだけ開かれたか」「どのくらいの期間のあいだに開かれたか」を加味したランキングになっています。
いわばその記事に対する読者のロイヤリティ(忠誠度)やクオリティを示しているといっていいのです。
たとえば現時点で saved rank が過去30日で1位の記事は当ブログの場合「Flipboardとツイッターリストで脱Google Readerを一歩進める。そして新しい雑誌機能がすばらしい」という記事です。
しかし impact rank で1位の記事はこれとは限りません。それは「やるべきことをはっきりさせる ToDo リストの5つの約束ごと」という記事で、次のような数字を持っています。
保存された回数は先の記事よりも少ないのですが、実際に「あとで読まれた」回数が50%と多く、しかも時間がたっても読まれています。この記事が瞬間風速的に動いただけではなく、時間をかけて読まれているということを可視化しているのです。
コンテンツの時定数、あるいは Stickyness
Pocketのパブリッシャーツールで個別の記事をみると、それぞれの記事がどのようなペースで保存され、そして読まれたかという時系列が表示されます。ある閾値が設定してあるらしく、そこをもって記事のライフスパンが定義されています。
たとえばこの記事の場合、保存されたのから1日後から実際に読まれており、2週間近くかけて半数のかたが読んでくださっています。いわばこの記事の時定数がわかるわけです。
もし、興味のある話題でもそれほどあとで思い出すものでなかったなら、こうして読まれる割合は減るはずです。
Pocketのパブリッシャーツールは冒頭で述べた、パブリックなバズとしては観測できないものの、「2. 読むつもりで保存して、3. n日後に実際に読んだ」というプライベートなアクションを見せてくれるのです。
まとめ
ウェブでみた記事に対するアクションは1通りではありません。ある人はそれをつぶやいたり、はてなブックマークに入れるでしょう。これは他に人にも可視化されますのでパブリックなアクションです。
逆にそれをEvernoteにクリップしたり、Pocketに入れたりする人もいるはず。これがプライベードなアクションです。
でもこの二つ、両方ともおこなうという人はそんなにはいないといっていいでしょう。いしたにさんのブログでも書かれていますが:
たしかに、一度「Pocket」したものを、ブクマとかツイートとか、あんまりしませんよね。その気持ちは、すごくよくわかります。
ホント、なんだみんなここにいたんじゃーん!、なんですか、このサイレントユーザー、まるで地下水脈ですよ。
しかも、すでに見てもらったように、このポケットの数は、公開時期にあまり左右されていません。それよりも、その利用者にとって、ピュアな情報として、どれだけ重要かということにかかっていると想像できます。
そして、コンテンツに対してその鮮度がどれだけのスピードで落ちてゆくかという時定数が「読者の興味」という客観的な指標で可視化されているのも嬉しい点です。
読者一人一人はご自身の都合で記事を読んでくださったり、忘れたりするわけですが、それをすべて集めるとこうした推移がみられるわけです。
これは逆に、その記事がどれだけ息の長い「ログ」になるポテンシャルがあるかの指標にもなります。
ライフスパンをとうに越えて、数年たってもPocketに加えられている記事もいくつか散見されます。これらは真の意味で価値のあるコンテンツを生み出せた場合なのでしょう。
瞬間風速のバズではなく、ウェブサイトのログの地層が生まれてゆく瞬間をとらえることができる数字、それがPocketボタンのデータなのです。
p.s.
そしてこうしたデータを上から下から眺めわたして、相関をとったり因子分析をしたりするのが大好きな私は、そろそろデータサイエンティストを自称してもいいかもしれないと思ったり思わなかったり(笑)。