Google Reader がなくなるのは実はよいことかもしれない

RSSフィードを購読するツールとして、Google Reader を使っている人は多いと思います。

このブログでも数年前まで約 50% 対 50% で Google Reader と Livedoor Reader が拮抗していたのですが、現在は大半が Google Reader ユーザーに移行したというデータがあります。

なので、本日発表のあった「7/1でGoogle Readerが終了する」というニュースは衝撃だったのではないでしょうか。

私も最初は動揺したのですが、少し考えるにつれて、ひょっとしてこれは長い目でみるとユーザーにとっても、ウェブ全体にとってもよいことにつながるかもしれないと思うようになりました。

RSSはもう長いこと死んできた

もちろんGoogle Readerの退場をRSSそのものの死と結びつけるのは早計です。しかし「RSSは死んだ」は、ここ数年ネットでよく聞くフレーズでした。

記憶にあたらしいところでは、2011年のTechcrunchの記事と、それに応ずる形で GigaOM などが反論ポストをした議論が思い出されます。

「RSSが死んだのなら、次はなんだ?」という Robert Scobleによる Quoraのスレッドもここで思い出しておきましょう。彼は2009年にすでにGoogle Readerに死亡宣告をしています。

RSSに関するGoogle Trendも同様の下降傾向をずっとたどっています。

Rss trend

グラフの形は “feed reader”、“rss feed"といったキーワードにしても変わりません。ブログやウェブページが増え、発行されるRSSの数だけでいうなら増えているはずなのに、です。またこれは、ウェブ全体の利用者が増えているのに、相対的なシェアは増えていないと読むこともできます。

2011年までGoogle Readerのプロダクト・マネージャーだったBrian ShihがQuoraで答えた内容によれば、Google Readerの退場はきっとGoogle+のようなソーシャルなプラットフォームに対する寄与率が減ったせいだそうです。

これは「Google+がGoogle Readerを殺した」と読むよりも、Google Readerのユーザーから共有される情報の流れが無視しうるほどに小さくなってしまったと読むほうが当たっているのかもしれません。

Google Reader 大好きな自分にはちょっと悲しいですが。

Google Reader がなくなることは実はよいことかも

しかしよくよく考えると、近年Google Readerへの依存度はどんどんと低くなっていたことも事実です。

そしてGoogle Reader / RSS に依存することのデメリットも強く意識されるようになってきました。

1. Google Reader / RSS はスケールしない

情報量は日に日に増しているのに、RSSリーダーで処理できる記事の数はそれにあわせてスケールしません。Readerで読むことができる記事の数は1日せいぜい1000件です。

私のフィードの登録数はいま300くらいですが、それを1000に増やしても破綻しないように1記事あたりにかかる時間を1/3に減らすか、自分にとって不要な80%をあらかじめフィルターで除去する機能がずっと必要だったのに、イノベーションはおきませんでした。

2. RSSはフローとストックの二兎を追ったあげくどちらにもなれなかった

更新がいち早く届くという意味ではフローですが、記事がすべて蓄積してゆくという意味ではストックであるのがRSSリーダーです。情報が漏れなく集まっているという安心はあっても読み切れない記事が増えるうちにS/N比がどうしてもノイズに偏ってしまうというジレンマが生じます。

せっかく集めた情報なのに、「すべて既読にする」ボタンを利用することになるのは皮肉なことだとよく思っていました。

3. RSSに届いた情報は活きが良くない

たとえばツイッターやFacebookで目にした情報は、それが話題になっているかどうかをRT数やいいね!の数で瞬時に把握できます。届いた情報のリアルタイムの「重み」が計測可能なのです。RSSはすでに締めた魚のようなもので、ソーシャル・メディアの情報は活きているといってもいいでしょう。

実際、この記事の下書きをGoogle+に投稿して意見を求めた際、30分以内にコメントが20近くつき、Twitter/Facebookにも投稿したらRTといいね!も数十個ついてあらかじめ議論が深まりました。共有に近い場所に情報を置くこと、この流れとRSSの親和性は必ずしも高くないのです。

ではどうするか? ポストGoogle Reader の世界へ

Google Reader から Feedly、Livedoor Readerなどへの移行もはじまっているようですし、メジャーなRSSリーダーアプリが対応をうたっていますので、現実には影響は限定的かもしれません。

しかし長い目でみるとRSSは退場する途上にあり、Google Reader がなくなることで時計の針はやっと動き出したともいえます。

そこでいま何よりも求められるのは、1. 情報の量に対してスケールする、2. リアルタイムで、3. コンテキストを理解したツールだということになります。

3 の「コンテキスト」というのは、たとえば僕が「GTD」でアラートをかけたらそれは「Getting Things Done」のことであって車の「Golf GTD」のことではないと理解する程度に頭のいいシステムです。

理想的にはrdf taxonomyのようなもので「情報の意味」をページ自体がmachine readableに発信するべきなのですが、本当に面倒です。Google のナレッジ・グラフがそれを可能にするのかも知れませんが、とにかく「今すぐ」という話にはなりません。

現時点では、こうした求められている機能にGoogle Readerのようなわかりやすいインターフェースがない段階といってもいいのかもしれません。でも準備を始めておくことはできます。

  1. Twitterリスト、Google+サークル、Facebook講読をたがやしておくこと。シグナルを受信するにはまずアンテナを正しい方向に広げておかないといけません

  2. Googleアラートのようなノーティフィケーションの仕組みをたくさんもっておく。すでに興味があるとわかっているキーワードについては、観測範囲外からの情報も拾える可能性が高くなります

  3. 情報のハブとなっている人をフォローする。1 と似ていますが、こうした人は1次情報を増幅させることを普段やっている人です。ハブ的な人はハブ的な人とつながりがちですので、発見するのはそれほど難しくないですし、Hootsuiteの有料版にあるようなKloutフィルターも使えます

  4. Scoop it!、paper.li、Gunosyといったキュレーションサービスもバックアップとして利用しておく。このあたりは、シグナルがある程度増大してから拾う傾向にあるので、「もう聞いたよその話」ということもあり得ますが…

  5. 自動でウェブを巡回して更新、キーワードを取得する仕組みを自分で作れる人は自動化すればするほど強い

最初Google Readerがなくなったらどうしようと思ったりしもしましたが、また自分の情報アンテナを構築できるチャンスと考えるとすこしわくわくしてきました。

RSSも別に7月でなくなるわけではなく、これからも長い時間お付き合いすることになるでしょう。でも使い方は変えるべき段階にきているのです。

The RSS is dead! Long live the RSS.

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。