その仕事を終わらせろ。ライフハックではなく、もっと勇気をもって!

Direction

GTDを完璧に身につけて、最新のITサービスからガジェットまで「使いこなし」て、さらに高速で本を読んだり時間を効率化するタスク管理を身につけたとして、それでどうなるのでしょうか?

このノイズばかりの世界でいつも勇気を出して真実に迫る言葉を与えてくれるセス・ゴディンのブログで「ライフハックにうつつを抜かして」という記事が登場していて本当にそのとおりだと心の底から納得します。### 効率化した先に…何が?

ことわっておくと、セス・ゴディンは効率化を責めているわけでも、ライフハックが無駄だと断じているわけではありません。

ただ、効率化した先に何があるのかという挑発をしているといっていいでしょう。

効率化はそれはそれで素晴らしい。でもすべては「何をリリースしたのかい?」という一点に尽きるんだ。

時間をたくさん節約して、自分を無駄なものから開放して…何をするつもりだったんだろう?

生産性について書いているブログはそれ自体が娯楽なわけではなく、私達がなにかを「終わらせる」ところまでもっていけるように熱心に記事を書いてくれている。この「終わらせる」という部分が重要なんだ。

これは生産性だとかライフハックの記事で常に足元に開いている落とし穴です。

効率化で一時間を節約できたとして、次の一時間をさらに忙しく同様の働いているだけならそれは雑用を雑用で交換したに過ぎません。

1時間を節約して1時間を別の活動にあてられてよいじゃないかという意見もあるかもしれません。

たしかにそれはそうですが、その結果その時間が蓄積した何か、リリースされた製品や、考えや、ブログ記事といったアウトプットがなかったら、それは長い目でみると効率化した意味さえもが消失してしまいかねません。

より賢く、より速く、より良くできるようにする努力は未来を生み出す手助けをしてくれる。しかしそのリスクは、そうしたノウハウを集めて議論するばかりで効率化が目的にすりかわってしまうことだ。

次のフロンティアは効率化ではなく、もっと勇気を出すことではないだろうか。

セス・ゴディンの言葉は簡潔すぎるのでここはもうちょっと説明が必要でしょう。

たとえばiPhoneでGmailを効率的に整理する方法や、タスク管理の曲芸をすべて身につけていたとしても、最も大事な次のアクションの前で足踏みをしてしまう瞬間は数え切れないほどです。

足踏みをしてしまう理由は自信がなかったり、ちょっと誘惑にまけてしまったりと様々ですが、それはどんなハックにも乗り越え難い心の壁なのです。

逆に一瞬の勇気を獲得してその一歩を踏み出すことができれば、それこそはいまやっている価値のある仕事を終わらせる原動力になります。ライフハックはその一歩をなるべく簡単にできるように道を整える以上のことはできません。

勇気を出して最も重要な一歩を踏み出すためにライフハックを使っていますか? それともライフハック自体がひとつの習慣になりはじめていませんか?

私も、頻繁に後者に陥ります。そしてそのたびに、これまで培ってきたテクニックで足元を固めつつも心にむかって呼びかけるのです。

「勇気を。もっと勇気を!」

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。