アーロン・シュワルツの「生産性について」を読み返す

Aaron

ブログを書いている人、読んだことがある人ならなんらかの形でアーロン・シュワルツのお世話になったことがあるといっていいでしょう。アーロンはたった14歳のときに RSS の仕様策定にかかわった人物で、Reddit の立ち上げや、SOPA反対運動などでも知られていました。そして Raw Thought という、実に考えさせられる挑発的なブログの著者でもありました。

そのアーロンが、26歳の若さで自殺という形で命を絶ってしまい、アメリカのネット界は騒然となっています。私も長年読んできたブログの著者がこのような形でいなくなってしまったことにやりきれない喪失感を覚えています。この件については、最新のライフハックLiveshowでも時間をかけて扱いましたので、そちらも御覧ください。

そのアーロンが7年も前に、ライフハックという言葉がうまれようとしていた頃に書かれた「生産性について」というブログ記事があります。長い記事ですが、今読み返しても仕事術とライフハックの骨子はすべてここに見て取ることができます。### 時間、ツール、先送り

この長いブログ記事は時間の使い方、ツールの使い方、そして先送りとの戦いという3つにわけて読むことができます。いくつかかいつまんで紹介しましょう。

常にノートと筆記用具を持ち歩く

興味深い人は常にノートと筆記用具をもっていて、いつでも何かを書き留めることができるように準備している。アーロン自身はその頃にはすでに携帯電話ですべてのメモをとるようにしていたと書いていますが、それだって作ったメモをメールという形で自分に送信することで対応せざるをえない状況を生み出すことでアイデアがなくならないようにしていたようです。

重要な問題を複数みつける

これは人によるかもしれませんが、アーロンは常に複数のプロジェクトにタックルすることで常に何らかの進展を生み出すことができるというタイプの人間だったようです。

というのも、同じ30分という時間でも午前中か午後か夜か、机の前か出先か、集中力があるかないかといった「時間の質」によってどんな仕事が進むかが様々だからです。プログラミングに向いているときはそれを進め、文章を書くのにふさわしい時にはそれをするという具合に、常に物事を進められるようにリストを作っておくとよいというのが、彼のマルチタスクの流儀でした。

先送りは頭脳で反発する磁石

仕事を先送りしたくなる気持ちはどんな人にでも生まれるもので、これを彼は「2つの磁石が反発するのに似ている」としています。

仕事が難しすぎたり、強制されている感じがあると、その仕事のまわりに反発する磁力のような場がうまれてしまい、意志の力だけではほんのすこしの油断でもまた引き離されてしまうのが「先送り」というわけです。

こつは仕事と自分が惹き合うようになる工夫を探すことで、これは仕事を楽しくするための何かを探し続けることでもあるのです。

より重要なことを探し求める

元記事は非常に長いのですが、時間がかかっても読んでみることをおすすめします。非常にラフな形ですが、あらゆる仕事術の原型がここにはありますし、忙しい人にとって役に立つ実際的な話題ばかりだからです。

しかし冒頭ででてくるこの言葉が、たくさんの仕事を残して若くして旅立った彼の未来を占うようで読んでいて切ないです。

Life is short (or so I’m told) so why waste it doing something dumb? It’s easy to start working on something because it’s convenient, but you should always be questioning yourself about it. Is there something more important you can work on? Why don’t you do that instead? Such questions are hard to face up to (eventually, if you follow this rule, you’ll have to ask yourself why you’re not working on the most important problem in the world) but each little step makes you more productive.

人生は短い(と僕はきいている)のだから馬鹿なことで無駄にしたくはないよね? 目についたものをとりあえず始めることは簡単だけれども、常に自分自身に「もっと重要なことはないだろうか? なぜそれをしないのだろうか?」と聞かないといけない。それは直視するのが難しい質問で、この質問を繰り返していれば世界で一番重要な問題にとりくんでいないのはなぜだと自問することになるのだけれども、この小さな一歩が生産性を上げることにつながるんだ。

なんという損失だろう。もうあの切れ味の鋭いブログ記事の更新もないのですね。さびしいなあ。May you rest in peace.

(冒頭の写真は Flickrユーザー、ragerossより)

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。