スマートフォンとLINEが作り出す、もう一つの閉じたインターネット
先日、義理の母が「LINEで近所の知り合いとおしゃべりを楽しんでいる」と聞いてびっくりしていました。
iPhone、Skype、さまざまなデバイスやサービスがありますが、LINEはそのどれとも違う方角から「いつの間にか」やってきていたという印象があります。新しいもの好きの自分には過去に体験したことのないぞわぞわという感じです。LINEに感じる、この感じは世界が今一度変化しつつある兆候なのかもしれません。
その「LINEのいま」に取り組んだ旬の本、「LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか? 」を著者であるネタフルのコグレマサトさん(@kogure)、まつもとあつし(@a_matsumoto)さんから献本いただきました。
LINEとは何なのか? どうしてここまで利用者が増えたのか? ネットのアーリーアダプターのレーダーをかいくぐって広まったLINEを見ると、ネットの未来の道筋がいくつか見えてきます。「LINE使っていない」という人にこそ、読むと発見が多い一冊と言えそうです。
LINEを読み解くいくつかの疑問
最初に誤解がないようにしておいたほうがいいのは、この本はLINEそのものの使い方について書かれた本ではないという点です。
むしろ、LINEがどのように利用されているのか? どのユーザーはどんな世代でどんなバックグランドをもっているのか? LINEと他のSNSを比較することで見えてくる未来は?というテーマにとりくんだ本です。
よくよく考えてみると、ここには不思議な点がいくつかあります。たとえば、LINEが提供するチャット、無料通話という機能はすでにSkypeなどといったサービスがあったものです。にもかかわらずLINEの利用者が増えた理由は何なのか?がまず大きいでしょう。
この疑問に対して、本書では感性の側からコグレさんが、データの面からまつもとさんが切り込んでいきます。実際、この両方の解説がないとなかなか納得出来ないのがこのLINEという現象なのです。
なぜLINEはいつの間にか広まっていたのか、LINEは韓国のサービスという誤解がなかなか解けないのはなぜか(LINEの親会社NHNは韓国の企業ですが、LINEは日本発のサービスです)という疑問の答えも本書を読むといろいろ見えてきます。
もう一つの疑問は、「LINEが流行する背景はSNS疲れと関係するのだろうか?」というものです。LINEはSNSというよりは友人同士の閉じた空間であるということを考えると、なぜ Facebook、mixiではいけなかったのかという疑問が生まれます。
スマホシフトと、もうひとつのインターネット
この疑問に対して、本書は「スマホシフト」というキーワードと、「アプリ」というキーワードで今の状況を解説していきます。
パソコン上のブラウザからアクセスするネットと、スマートフォンからアクセスするネットには「アプリ」を通過するかしないかで大きな違いがあります。
FacebookのiOSアプリがHTML5からネイティブアプリ化したという流れや、先日の記事、「PocketのEvernote、ツイッター、Facebook共有機能が強化されて「勝負あった」感が強い」も、実はこうした状況の一面だったりするのですね。
かつてFacebookはユーザーをFacebookの「Walled Garden」(壁に囲まれた庭園)から逃さず、そこだけで閉じた「第二のインターネット」を作っているのではないかという批判を受けた経緯があります。Google+のような、ネットの情報をどんどんと共有するための土管のようなサービスはそれに対する一つのアンチテーゼとして読むといろいろ理解できるわけですね。
LINEはさらにこれが推し進められて、iPhone / Android 携帯というデバイスとアプリ、そして友人同士という閉じた空間のなかでやり取りが完結するもう一つのインターネットを作り上げているという見方もあるでしょう。LINEが私に与えるこのざわざわ感はここに起因しているといってもよさそうです。
本書ではLINEのプラットホーム化が目指す未来や、mixi、Facebookとの構造的な話題についても豊富な図表で示されていて、まさに LINEにかぎらず「今」を読み解くのにかっこうの一冊になっています。
途中、内閣広報室ITアドバイザーとして登場するみたいもん!のいしたにまさきさん、NHNジャパンの方、i-modeの父、夏野剛氏のインタビューがはさまっていて多様な意見が流れ込んでいるのも良かったです。
LINEを使っている人も、むしろ使っていないという人も、ネットの2013年を予想する一冊としてぜひ手にとってみてください。