決して失いたくない「日常の断片」をEvernoteに記録する

Evernote memories

わかりやすいシャッターチャンスも、「これだ!」という見所も必要ありません。ただ、スマートフォンでEvernoteを起動して写真を撮るか、音声メモを起動するだけで大丈夫です。たったこれだけのことですが、一つの発想の転換とともに習慣にするとかけがえのない瞬間が蓄積されていきます。

去年のEvernote Trunk Conferenceで紹介した意外なほど簡単な習慣についてご紹介したいと思います。### 日常の断片を収集する

私のEvernoteには決してなくしてはいけない「時間の断片」が数多く記録されています。たとえば娘がまだ家内のお腹の中にいたときのエコー写真だとか、生まれた際の最初の産声といったものはわかりやすい例です。

しかしもっと特徴のない、本当に「日常の断片」としかいいようのないノートも含まれています。多くは別に何かを録音しようと意識もせずに音声メモを起動していて、娘のはしゃぐ声、食事を準備する食器の音、とりとめもない会話が録音されています。

写真についても、部屋の模様や、出勤している最中の道のり、毎日通りかかる駐車場の様子などをランダムに撮影しています。

こうしたランダムな記録を増やしておくと面白いのは、それが記念すべき瞬間や覚えておこうと意識して記録する出来事の隙間を埋めるように日常の記録に奥行きを作ってくれるという点です。

自分はこれを特別なことだと思わずに無意識にやっていたのですが、去年のサンフランシスコで行われたEvernote Trunk ConferenceでEvernote CEOのPhilが「君の使い方は特に memorable だった。あの話をしてくれないか」と満場の観衆の前でその話をもちだしたので、英語でおたおたと説明しなければいけないというできごとがありました。

そのとき、これはEvernoteがもっている潜在的な価値の根に触れる話題なのだとあらためて意識したのでした。

これは「ライフログ」ではない

注意したいのは、これはいま流行している意味での「ライフログ」ではないという点です。

いまはやりのライフログは、食事のログであれ、場所へのチェックインであれ、かなり意識的にログをとろうとする意思が介在します。

ここでいう日常の断片の収集は、もっとランダムで、くせにならないと忘れかねないような、これまで意識していなかった瞬間をとりとめもなく記録します。これまでは記録それ自体に苦労がともないましたが、スマートフォンなら数タップでできるという気軽さがこれを可能にしているのです。

そしてランダムに記録をするといっても、案外人間の意識には偏りが生じます。ですから「ランダムに」というのは実は建前で、本当は記録の幅をいわゆる「シャッターチャンス」だけにせずに膨らませているだけともいえます。

その結果、これまで意識していなかった家族の談笑、引っ越せば忘れてしまう近所の風景、偶然の表情などがEvernoteに蓄積していきます。この偶然さが、意識して記録した情報に寄り添ってさらに全体を引き立てるのです。

Evernoteは便利なツールです。しかしその便利さは記録される情報の価値には置き換わりません。

決して失いたくない記憶を保全するための近道が用意されたこと、これがEvernoteのもつ価値の本質であり、将来性の源ともいえるのです。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。