全力で避けるべき「ライフハック・ポルノ」の罠

Toomuch

ライフハックのブログばかりを読み、ライフハックの実践にばかり時間を使っていると、油断すればあるいは「ライフハック・ポルノ」の罠にはまってしまうかもしれません。

Productivity Porn という言葉はライフハックが登場した頃からあります。「生産性を上げるテクニック」に夢中になりすぎるありさまを、自嘲的に、ポルノに夢中になるさまになぞらえた用語です。

ライフハックが登場した 2005-2006年頃は、それこそ非常に有用なテクニックがネット上で交換されると同時に、「短時間でシャワーを浴びる方法」「無駄遣いをさけるために(時間をかけて)日用品を自作する方法」「集中力を維持するための200の方法」などといった、有用さとは斜めにずれたものが wiki に膨大に書き込まれたものです。

しかし今でも油断をすれば、その道に踏み込んでしまうことがあります。### 手段が目的をハイジャックする

先日、本家 Lifehacker に寄稿していた Vivek Haldar は、まさに Productivity Porn についての記事で次のように書いていますが、これはまさに私の気持ちと一致します。

And I plead guilty. I’ve tried them all. Every now and then I stare into the chaotic abyss of the stuff I need to keep on top of, and decide what will save me is a new system. Of course, it doesn’t.

そして私は有罪を自分で認める。私は全部試したことがあるのだ。自分の「やるべきこと」の山とカオスを前にして「いまの自分を救ってくれるのは新しいシステムだ」と独りごちることがいまでもある。もちろん、それは自分に嘘をついているのだ。

たとえばGTDもタスク管理ツールも、タスクを実践することそれ自体のかわりにはなりません。頭のなかに覚えきれないほどの心配事を抱えているなら、まず最初にするべきことはタスク管理システムを選ぶことではなく、紙と鉛筆をつかんでそれを書き出すことです。

時間ログをとって24時間の使い方を意識するのは有用ですし、いままでやったことがない人にはもちろんおすすめします。しかし**「ライフログ」のデータそれ自体は人生ではありません**。

「これは便利」「これは有用」「これは効率的」という名のもとに手段が目的をハイジャックすること、これが Productivity Porn の罠です。

“Useful” < “Better”

もちろん真っ先に認めなくてはいけないのは、私がこのブログでさまざまなツールを紹介すること自体が、こうしたProductivity Pornを助長しているという点です。自分自身でこの罠にはまることだってよくあります。

しかし同時に挑戦しがいがあるのは、常に目的を見失わないことを心がけた実践と紹介の仕方です。“Useful” (便利)であることはたいてい人生をよい方向に変えてはくれません。“Better” 「より良い」ものであることだけが成長を促します。そして Better を達成できたときの気持ちよさといったら…! それはブログを通して伝える価値があるものだと思うのです。

先日、とある媒体の取材に応じていた際、「スマートフォンのカレンダーと紙のカレンダーはどのようにして同期するんですか?」という質問があってはっとしたということがあります。「どちらかを手放さないといけないと思いますよ」と、私は食事を丸い皿か四角い皿のどちらに盛りつければいいのかを悩む人の気持ちで答えました。

そしてその後、ずっと考え込んでしまったのでした。そもそもどのようにすれば美味しい健康的な料理ができるかを。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。