食事ログサービス miil の描く未来はきっと「ライフログ」ではない

Miil

週末、FrogAppsの食事ログアプリ、miil の新バージョン公開にあわせて行われたユーザーミーティングに招待していただき、参加してきました。ご招待くださった @hitoshi さん、ありがとうございました。

今回のアップデートの目玉がいくつかあります。なかでも注目すべきなのは miil が「グルメぴあ」と連携して詳細な店舗情報を提供するというニュースです。

iPhone で食事のログをとるアプリ・サービスは miil 以外にも FoodSpottingEateryがありますし、ソーシャルな側面の少ない個人的なログなら Evernote Food も存在します。

また、食事に限らず、人生のログをとるためのアプリは最近どんどんと発表されています。Digg の創業者 Kevin Rose が発表した Oinkや、 Googleのベンチャーの支援をうけている Stamped、最近話題にのぼることが多い Pinterestもここに含めてもいいかもしれません。(それぞれ参加していますのでよければフォローしてください(笑))

しかし数ある食事ログアプリそして多くの人生ログアプリに比べて、miil は一歩先の位置をつかみとっているような気がします。それは機能の優位性、ソーシャルな連携の強さだけではうまく表現できない、まだメトリック = 判断指標の存在しない領域といえます。

その向かう先はきっと、いまよく言われる「ライフログ」ではないのだなと思ったのでした。ちょっとわかりにくいですが、なんとなく近い将来とても重要なことにつながりそうなので書いておきます。### 過去を未来につなげれば、そこには価値がある

これは先日、「あなたの過去は、あなたの未来。Evernoteの2つのアプリが示すライフログの価値」という記事で書いた言葉ですが、miil も当然、一種のログアプリとして、食事をした場所や、食べたジャンルを記録することを可能にすることで価値を生み出します。

しかし Evernote Food や、Eatery がログ部分に力を注ぐのに対して、miil はもうひとつ別のレイヤーをかぶせてきます。先の CNet の記事から FrogApps 代表の中村仁さんの言葉を引用するとこうです。

我々はソーシャルグラフとその上に乗るライフログを使って、飲食店とユーザー、両者に幸せな出会いを作っていきたい。

つまり miil の価値はログアプリとして美しい写真で食事を残せるという「個人のライフログ」のレイヤーに、友人が食べているものを共有できる「ソーシャル」のレイヤー、そしてそれをクロスさせる「飲食店」データベースのレイヤーという、3つの異なるログの交差点にアプリが存在することになるわけです。

Miil3

個人的なログだけでは、根気がなくなったところがサービスとの別れの時です。でも「友人のログ」というソーシャルな部分が見えるために、自分がアプリを使わなくても楽しいし、口コミも自然発生するので嬉しいというのが従来的なソーシャルアプリです。でもやはり、自分も友人もそのアプリに疲れてきたころにサービスとはお別れということになります。

そこに「飲食店のログ」が加わると、面白いことになります。ログがクロスする部分が一気に3倍に増えるのです。

たとえば複数の友人が「食べたい!」ボタンを押した店が地図から判別されたり、似たような傾向をもったユーザーが行きつけにしている店がわかるかもしれません。ユーザーミーティングでも情報がでていましたが、「多くのユーザーがなぜか中華を食べたくなる日」といった行動がみえたら、そこに向かって飲食店側からアクションを起こすことも可能です。

miil をふだんまったく使っていないユーザーでも、なぜかカレーがブームになっていることが「ソーシャル」と「店舗情報」のクロス情報から見えてきたなら行動を起こすかもしれません。この、**「アプリをまったく使わなくても特定ユーザーをフォローしているだけで得るものがある」**という解があり得るのが実に秀逸です。

なんでこんなことが気になっているかというと、いわゆる「ライフログ」が、ただ勤勉に過去を蓄積するだけのものではいけないということが、ここからもわかるからです。

「過去を振り返ると楽しい」などといいますが、一年前にどんなカレー屋にいったかなんて、それほど意味はありません。「カレー」が入力間違いで「寿司屋」になっていても、ログをただ見ているだけなら気にもとめないでしょう。

しかし自分の過去ログが未来に「こんな店があるよ」「こんな本が好きじゃないかな?」「この近くに、君の好きそうな美術展がいまやっているよ」「今日リリースされるアルバム、きっと好みに合うはず」といったように的確に判断材料を与えてくれるなら、話は違います。

しかしそこはどうしても、**自分の過去ログだけでは「かつて体験したようなものを繰り返すだけ」という限界があります。**他人をフォローして、世界中のログとつながることは、自分が自分の殻から出ていき、新しい体験を呼び込むために必要不可欠なのです。

miil の描く未来はきっと、ただ過去を勤勉に蓄積するだけの「ライフログ」ではなく、まだ体験していないものを導くための「海図」としてのログなのではないか。

それを夢見ながら、明日も一枚、食事を写真に撮ろうと思います。

miil でも mehori のユーザー名で参加していますので、よければあなたのログに、私のログをクロスしてみてください。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。