「人生3万日」だと思ってはいけない

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なんという悲しい金曜日。この二ヶ月、急な病で闘病中だった義理の姉が他界しました。あまりに急すぎる別れに、残された家族や友人は激しく動揺しています。

私は義姉をよく知っていたわけではありませんでした。しかし私の娘のことをいつも可愛がり、気にかけてくださっていた義姉の人生が、あまりに早く絶たれなければいけないことに、言いようのない悔しさがつのります。

義姉は、まさかこの人にこんな災難が降りかかるとはとても思えないほど、活力に満ちた人でした。葬儀の準備で写真を整理していると、さまざまな場所へ旅行に行き、映画やアートを愛して、仕事とプライベートで活躍する姿がたくさんうつされています。

人生は3万日ではない

ときおり、平均寿命を82年として「人生は30000日しかない」という言葉が踊っているのをみることがあります。残り日数を数えて、「残りの方が長い、短い」とおっしゃっている人も。

私はこうした言葉を耳にするたびに、かぶりを振ります。この数日は、そうしたツイートをみてため息さえ出てきます。

義姉の人生はその半分ほどにしか達していませんでした。人生3万日などという数字は、どこにも存在しない嘘なのです。それは「平均値」という算術処理の結果うまれる虚像で、私とあなたを足して二で割ることができないのと同じくらい、ミスリーディングな数字といえます。

「人生は3万日」だと考え、「残り日数」の数に合わせて「人生であとこのくらいのことはできるはず」と考えてしまうと、私たちはありもしないタイムテーブルのうえで人生のスケジュールを組んでしまいかねません。

何か実現したいことがあるなら、いますぐに歩を進めなければ、思った以上に早く、タイムリミットはやってくることでしょう。それからでは、後悔しても遅いのです。

スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学での有名なスピーチで「毎日の人生を最後のものとして生きるんだ」というメッセージを遺していますが、この二ヶ月の闘病を考えると、本当に毎日が戦いで、明日を迎えられること自体が賜物でした。

人生には、残り3万日にやってくる「明日」などないのです。人生は常に「今日」しかありません。「今日」を最大限生きてください。「今日」を無駄にしないでください。「今日」を感謝してください。「今日」がいつかこなくなる、その日まで。そのことを、今私は義姉の人生からあらためて学んでいます。

義姉はいくつかのものを私たちに遺してくれました。本を作る仕事に携わっていたので、いくつかの形になったプロジェクト。すてきな友人との人間関係。写真から垣間見える、明るい花のような人生の残像。

お義姉さんへ。いままで本当にありがとうございました。これからの私たちの「今日」の歩みをどうか見守りください。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。