すべての研究者に時間の贈り物を「理系のためのクラウド知的生産術」(講談社ブルーバックス)
小さな本を書きました。通読するのに、きっと2時間とかからないはずです。でもその短い時間を100倍にしてお返しすることが本書の目的です。
私の本業は科学、正確には地球科学の研究者です。もともとこのブログを立ち上げたのも、理系研究者としてかけだしの頃に、事務作業と博士論文を書く時間を両立させるために学んだツールやテクニックを紹介したことがきっかけでした。
とても運のいいことに、このブログを通して何冊も本を書かせていただくことになりましたが、自分の専門への恩返しの意味もこめて「理系研究者のためライフハック本」を書きたいという気持ちはずっとあたためていました。
それが今回、講談社ブルーバックスという伝統あるシリーズの一冊として「理系のためのクラウド知的生産術 」というタイトルで実現しました! 本当にうれしい!
この本の紹介と、どんな人に読んでいただきたいかについてまとめておきます。### 研究者に時間の贈り物を
最初に断っておきますと、本書はこのブログを定期的に読んでおられる、Gmail や Evernote、Dropboxなどの扱いに慣れた人にしてみればちょっと物足りないかもしれないくらい、基本的なツールとテクニックをカバーしています。
この構成は意図的で、そもそもクラウドに触れたことがない初心者や、すでに円熟にある研究者にも最も短い時間で必要なテクニックが伝わるように設計しています。
第1章:クラウドサービスを使った仕事環境
本章ではまず Googleアカウント、Dropbox、Evernote を導入するだけでもどれだけふだんの研究生活に近道が生み出されるかをみていきます。この3つのサービスが残りの章の内容の基礎になっています。
第2章:メールに振り回されない環境をつくる
Gmail の考え方と、そもそもメールに振り回されないようにするためのワークフローを扱います。
第3章:手間をかけない論文管理法
ソーシャル論文管理サービスであるMendeleyを中心に、「最新論文がむこうから届く」環境作りについて解説しています。
第4章:アイデアをなくさない情報整理法
Evernote を研究ノートに使うことと、Remember The Milk を用いて細かいタスクも時間の割れ目から漏れていかないようなシステムを作るテクニックについて解説しています。
第5章:クラウド上で論文を書く
Google Documentで論文の書き方が、そして学生指導がこんな風に変わる!というソリューションを解説しています。以外にこれをちゃんと解説している人が少ないんですよね。
第6章:時間も空間も超えるコラボレーション術
この章では理系研究者のあいだでなかなか広まっていない Skype やソーシャルネットワークなどの利用で、現場がどのように変わるかといったテーマを扱っています。本当に、無駄な国内出張や国内集会に時間をかけるよりもふだんから Facebook でつながっておく方が便利ですよ。
第7章:細かい時間を稼ぐテクニック集
最後の章は、研究の現場で利用できる時間節約のためのテクニックをまとめています。これは本当に私の日常からピックアップした感じです。
困難な時代を乗り切るために
理系研究者というと、非常にスマートで、俗世的なこととは無縁なものなのではないかと言われることもあるのですが、実情は「町工場の社長さん」のように現場の技術から経営まですべてをこなさなくてはいけない泥臭さがあります。
研究だけに時間を使えればいいのですが、膨大な事務作業、研究費をとるための試行錯誤、解析や実験を可能にするための設備のメンテナンススキルの習熟など、たった一人の人間が多岐にわたる責任を担うことを余儀なくされています。
ここに研究費縮小、少子化による人材枯渇、国際競争などが加わって、理系研究者の現場は年々厳しくなっています。たとえば科学技術政策研究所の調査では、大学教員の研究時間が2002年から2008年の間に11%も減少しているという話題もあります。
しかしこうした状況を嘆いていても、容易には状況が改善しないことは明らかです。研究の現場全体が直面している困難は、一人一人の研究者が個人の機転で乗り越えてゆくことが求められています。
そのきっかけとして、本書が活用されれば、一研究者として本望です。理系と銘打っていますが、ある程度は文系研究者にも応用可能だと思いますので、興味のあるかたは手に取ってみてください。