不安と恐怖に打ち勝つ習慣。ジョナサン・フィールズ基調講演 [WDS]
ここに二つの袋があります。一つの袋には白い球が半分、黒い球が半分入っています。もう一つの袋にも白と黒の球は入っていますが、その割合はわかりません。全部白かもしれないし、全部黒かもしれません。
ここでもし、どちらかの袋から球を一つだけ取り出すとして、もし黒い球を引いたらいま持っている財産、これから稼ぐであろう財産のすべてを没収されると言われた場合、どちらの袋から球を選びますか?
この実験は「Ellesberg の矛盾」といわれる行動心理学上の反応を描くもので、どちらを選ぶほうが損か得かわからないにもかかわらず、多くの人は前者の袋を選びます。結果が「不確実」であることは、私たちに大きな恐怖を与えるのです。
しかしその一方で、職業を変えること、職をやめて何かに挑戦すること、何か大きなプロジェクトを手がけるといった行動のすべてにおいて「ダメかもしれない」「人からなんと言われるだろうか」という不安はつきものですが、それをものともせずに実行している人がいるのも事実です。
特別な才能がなければこのようなことはできないのでしょうか? それとも、誰にでも実行出来る、恐怖に打ち勝つための習慣があるのでしょうか? Career Renegade の著者で、WDS 最後の基調講演に登壇したジョナサン・フィールズは「ある」と言います。
恐怖に打ち勝つ習慣
恐怖と相対するとき、多くの人は「より多くの情報」を求めがちですが、それが恐怖を減ずることにはなかなかつながりません。情報によって恐怖が減るのは、「すでにやり方がわかっていること」「過去に繰り返されていること」なのですが、挑戦しがいのあることに、そうしたものはなかなかありません。
ところが面白いことに、さきほどの実験に、一つ手を加えると私たちにとって有利な変化が生まれます。どちらの袋を選択してもいいのですが、どちらの袋を選択したかは秘密にしますと被験者に告げた場合、結果は逆に近くなるのです。
つまり我々が不確実さを前に感じている恐怖は、選択の結果をおそれているだけではなく、選択によって「君は間違った選択をした」と周囲にみられることでもあるわけです。「不確実」に対する恐怖を減らすには、こうした特徴を逆手に利用するのが有効なのです。ジョナサン・フィールズは講演のなかでいくつかの方法を示しました。
- 失敗が許される環境: とある化学の研究室では、金曜日の夕方だけは失敗や発想の馬鹿らしさを問わずに「クレイジーな実験」を自由奔放にやってみることで、多くの新しい発見とパテントを生み出すことができたといいます。Google の20%ルールからどれだけ多くの新しいサービスが生まれたかも有名な例でしょう。
何か大きな挑戦をする際に、小さい、批判されない環境を作って自信をふくらませてゆくことは非常に大事なわけです。
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ワークフローを作る :「やりとげる力」のスティーブン・プレスフィールドは、執筆の前にいくつかの習慣があります。机を整頓する、ミューズに呼びかけるなどといった、彼にとって特別なルーチンです。クリエイティブな作業の大部分は、こうした道具の準備、舞台の整頓といった、クリエイティブではないものによって実は支えられています。スポーツ選手がフォームを整えるのと同じように、挑戦の度合いが高いほど普段のワークフローが体に染みついていることが失敗への恐怖を抑えてくれる効果を持ちます。
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異なる物語に作り替える:「これができなかったら悲劇が待っている」という内的独白を、「これを乗り越えたときに大きな栄光が待っている」と言い換える分にはただです。ネガティブな表現や、自分を犠牲者として捉える言葉はすべて意識的に逆に言い換えることで、何も始める前から力が吸い取られないように気をつけます。
講演は彼が9月に出版する本、Uncertainty のプロローグでもありましたので、さらに詳細な部分は本で読むことになりそうですが、最後にジョナサンは満場の聴衆に一つの挑戦を呼びかけました。
「僕の、そして他の皆の講演を聴くのもいい。僕の本を読むのもいい。でも君が「不確実」を前に立ち止まっていたらこの会議も、ともにいるこの時間も意味はない。次の30日、WDSで学んだことを実践できるか、君たちに挑戦してもらいたい。君の前にある壁をクリエイティブに乗り越える方法はあるはずだ」
今回の会議の最後に、ジョナサン・フィールズの講演が用意されていた理由がなんとなくわかる気がしました。WDS が終わればまた参加者はみな、自分たちのそれぞれの人生に戻らなければいけません。そこには困難や、また元通りの日常への沈滞が待っている可能性があります。
ジョナサンはそれを見越して、最後に思考の劇薬ともいうべきメッセージを与えてくれたのです。
WDS では他にも大勢の講演、ワークショップがありましたが、すべてを紹介しているわけにもいきませんので、もう一つほど記事にして、まとめておこうと思います。