4年の壁

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4年前の2月、Lifehacking.jp はブームに乗り遅れたブログとして地味にはじまりました。欧米のライフハック系ブログを読みあさって得た知識と、いくつかの基本コンセプト、そして背中を押してくれた先輩ブロガーの言葉だけを頼りに、何をしているのかもわからずに始めたプロジェクトでした。

最初は、現在にいたるまで「仕事術」としての紹介に偏っているライフハックをもう少し読者の手元に近いところに戻したいという思いが強かったというのがあります。すべてが仕事における成功という座標軸に対する射影を伸ばそうという風潮に対して、それもいいけれども「幸せ」「楽になる」「人生を変える」という軸も大事じゃないか、という反発もあったと思います(これは2007年の話だということを思い起こしてください)。

最初の1年はアクセスがなくても続けることを決めていました。3年間は継続することで自分の立ち位置を確かめようというのも当初の計画のうちに入っています。

ところが事態は思いもよらない方向に向かいました。当時まだまだライフハック系のブログが少なかったこともあり、このブログは一年どころか始めて2ヶ月で急に成長をすることになります。

自分としては、興味のある IT 系の話題や海外のライフハック記事、そして若干の自分の体験を、ただ自分の視点で記事にしているだけのつもりでした。しかし驚くほど多くの方が私の狭い視点を通してこれらの話題に触れてくださるという現象がおきて、そのころも、もちろん今も、嬉しい気持ちでいっぱいでした。

でも私の前には4年の壁が見えてきていたのです。

4年の壁

Lifehacking.jp の哲学、ライフハック観は、Merlin Mann の 43Folders に負うところが大きいものがあります。Merlin こそはライフハックの育て親的な存在であり、今も人気のあるいくつかのトレンドは彼が 2004 年に始めたものでした。

その彼が、2008年9月の「4年間」と題した記事で、彼がそれまで 43Folders が4年間作り上げてきたライフハックの一分野を「生産性をあげると称していつまでも仕事をせずにToDoシステムをいじくっているようなもの」として完全に否定します。そしてブログの方向性を、むしろ「常に何かを始めること」「クリエイティブに生きること」「変化を起こすこと」に集中すると宣言しました。

そこまで完全にライフハックを否定はできないものの、この宣言は私にも大きな影響を与えて、自分にも Merlin と同じような「4年」がやってくるのだろうという予感めいたものを残して年月は過ぎました。

「自分を変える小さな習慣」

そしてブログを始めて4年が過ぎたこのタイミングで、私なりの「壁」が姿を表したような気がしています。

足りない才能を補う生産性のハックやツールはいまでも好きですが、それが楽しいだけであまり本質的に役に立たないものなら、それを紹介することはやはりノイズなのだろうなという気持ちがさらに強くなっています。たとえば:

  • 私はもう「○○を××するための△個の方法」のテンプレートを無邪気に利用して、その日にブログをかける時間にあわせて△に1,3,7,10といった数字を当てはめる記事は書けそうにはありません。膨大な数から最も本質的なものを選び出してリストを作るならともかく、数字にあわせた記事作りはどうしても帳尻合わせが生じる分だけ読者の時間的浪費となります

  • 技術的に素晴らしくても、長期的に利用でき、読者の人生をポジティブに変化させるものだと思わない限り、そのサービスやガジェットを紹介することはできそうにありません

  • 献本やサービスの紹介はいつもありがたく受け取っていますが、紹介できる可能性はますます低くなるかもしれません。すべての本や製品が苦労を経て作られていることは自分も書き手ですのでわかりますが、やはりすべてのサービスが読者にとって有用であるとは考えられないからです。

このままいくらでも書けますが、なんとなく言いたいことは伝わるのではないかと思います。こうした判断は見かけ上ブログの幅を狭めることでもあるのですが、それはむしろ良いことであるというのが「情報ダイエット」の一つの考え方でもあります。

2008年にいしたにまさきさんブロガーウォッチングのインタビュー記事でも、良い意味で「話題を狭める」ことについて自分がすでに話していて驚いたのですが、今後さらにこの方向性を強めたい気がしています。

と、ここまで書いておいてなんですが、実際のところブログの内容は今後もそれほどかわらないかもしれません。Merlin の記事を 2008 年に読んで以来、その哲学は少しづつ浸透していたからです。

ただ、今よりもさらに「偽・仕事術」的な記事を注意深く避け、サービスが目新しいからといって紹介せず、「自分を変える」要素がないものは徹底して排除して、可能であれば文章量を減らして本質を抜き出せだらと思います。

そして、読者にとって「変化のきっかけ」であったり、「仕事や人生のきっかけ」となる話題を探し求めることができればいいなと思っています。

長々と所信表明をしてしまいましたが、一言でいえばこの地味なブログは今後さらに地味に更新していきますよ! というだけのおはなしです。よろしくお付き合いいただければ嬉しいです。

Happy Lifehacking!

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。