読書の喜びのすべてがここにある「現代読書法」田中菊雄
読書をするとき、憧れがページをめくる原動力という気がしませんか?
難しい本を読んでいるときでも、楽しい娯楽作品を読んでいるときでも、「この本を理解したい」「もっと先を知りたい」こうした気持ちがあるからこそ、次の一ページをめくって読んでいきます。
読書について書かれた本は数多くありますが、単なるハウツーものではなく、こうした本を読む喜びと憧れをかきたててくれる名著が、田中菊雄氏の「現代読書法」(講談社学術文庫)です。
田中氏は「岩波英和辞典」の編者としてしられていますが、その経歴にはすごいものがあります。1893 年に北海道に生まれ、小学校を卒業後、国鉄の給仕をつとめながら独学を進めて小学校の代用教員に転身。その後、呉中学、山形高校、山形大学教授、神奈川大学教授を歴任するという、まさに「学問で身を立てた」人でした。
彼の本への情熱も人並み外れています、代用教員の月給が月に十八円だった時代、月に七円の十二回払いの月賦を書店の店主と約束してセンチュリー大辞典を購入するということまでしています。月給20万円なら 7.6 万円、つまり家賃に相当する金額を辞典のために割き、それから一年はご飯に沢庵だけの「菜根譚」で過ごしたというのですから本好きの鑑です。
そんな田中菊雄氏の「現代読書法」ですから、この本は数百冊の本を我がものとした人にしか語れない知恵と経験にあふれています。
本の半分は引用文で構成されているほどで、古今東西の著名な学者、文学人の言葉を引いて「読書の準備法」「精読、多読、目録の作り方」「研究と読書」「書斎と能率」といった重要なテーマがこれ以上ないほどに掘り下げられて論じられています。多少時代が古いとはいえ、「読書とノート」、情報カードの使用法、読書と知的生産といった話題にもふれられています。
引用文は夏目漱石、吉田松陰、カーライル、リチャード・ジェームス、エマーソン、ラスキン、ブラウニングなど膨大な数にのぼり、これだけでも教養を養うに十分な質と量です。
しかもその一つ一つの引用の選び方が、読書に対する燃えるような憧れをかき立ててくれるのが、本書が名著であるゆえんです。たとえば本書を本でみかけたらぜひ開いていただきたい「十八章 社会人と読書」では:
「習慣とは第二の天性なりとや! 第二どころではない、習慣は十倍の天性だ」といったウェリントン公の言葉は真である。よい習慣を得た人は幸いである。特によい読書の習慣を得た人は幸いである。 このような、読者を励まし、鼓舞する言葉が的確に挿入されて気持ちを高めてくれます。この本を開くと、私は本を読まずにはいられなくなります。「スキルを学ぶため」とか「1日1冊を読破するため」という程度の軽い読書ではなく、人生を彫るような深いものが読みたくなるのです。
この本の唯一の難点は著者の責任ではなく、時のせいです。いまでは使われない言葉や、難しい漢文が頻出するので、易々と読むことはできないでしょう。しかし読めば読むほど読書への憧れが抑えきれなくなるのですから、そんなことは小さな障害にすぎません。
秋の読書のスタートをまだ切っていない人、読書の何がいいのだろうと自問を始めている人は、本書で心に火をつけてから臨んでみてはいかがでしょうか?
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