「成功」の理由は「個人」に帰することができない

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最近 iPhone でマルコム・グラッドウェルの “Outliers” を何度目かに読んでいます。「天才!」という名前で邦訳もでましたので、手にされた方も多いのではないでしょうか。

去年、「10000時間の法則」の記事で紹介したのはこの本の2章の内容に過ぎませんでした。残りの章で著者は「天才」や「成功」を勝ち取った人々を次々に考察し、それが個人の才能や天分ではなく、生まれ落ちた環境の特殊性に依存していることを論じています。

「なんだ、天才な人の本か」と思ってんざりとしそうになった人。もしかしたらそんな人にこそ、この本を手に取る意味があるかもしれません。この本は最も背の高い、美しい樹の話ではなく、それをはぐくんだ森の話だからです。

何度も読み返すうちに最も私に突き刺さるようになった言葉は、この2章ではなく、実は1章にあります。

ホッケーの才能を早いうちに見いだそうとするカナダの少年リーグでは、年齢の分け目を元旦に設定しているために、同じ年齢でも早生まれで体格が少しでも大きい子供が選ばれる傾向が強いことを例に挙げ、著者はこう続けます。

Do you see the consequence of the ways we chosen to think about success? Because we so profoundly personalize success, we miss opportunities to lift others on to the top rung.

私たちが「成功」というものを受け取るそのしかたが、どんな結果をもたらしているのかおわかりになるだろうか。私たちが「成功」の理由を個人に内在する資質に求めすぎるあまりに、それ以外の人々は成功へと引き上げられる機会を逸しているのだ。

成功は個人に属するのではなく、成功にむけて個人を選別するシステムや本人の周囲の環境が、本人の才能に関係なく「成功」を支えているのだという著者のメッセージは繰り返し味わうに値します。

別にいわゆる「天才」「才能の人」と言われている一個人の力を貶めるためではなく、もっと多くの人が成功をかみしめることができる社会とはなにかを考えるためです。

私はこの本を Audible.com のオーディオブック版で読んでいるのですが、著者であるマルコム・グラッドウェルが自ら読み上げる声はどこか悲哀を帯びていて、一度聞くだけで忘れられない印象を残してくれます。

著者はその声音を通してこう語っているようでした。「見えるかい? この世界のねじ曲がった公平さと、平等に与えられる不公平さが」「個人の成功とは何なのか、その意味がわかるかい?」

英語に自信がある人はぜひオーディオブックも手に入れて、悲哀と驚嘆の入り交じった著者の肉声に耳を傾けてみて下さい。

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追伸

「書評を書いて、次の本をもらえる」シゴタノ!読書塾Vol.2 の締め切りが 24 日までのびました。

Outliers を紹介するのでもよいかもしれません。「もういろんな人が書いてるじゃないか!」と思われるかもしれませんが、これはあたりません。

「誰も読んでいない本を紹介する」のではなく、誰もが読んでいる本であっても、「自分にしかできない方法」で紹介することが面白い書評への近道だからです。おお、なんだか上とも関連していますね。

こちらの記事も参照のうえ、ふるってご参加下さい!

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。