大きな成長は「今できること」の螺旋階段
すべては一つのアイディアから始まります。でも無数のアイディアのうち、どんなアイディアが「成功」へと導いてくれる道のりとなるのでしょうか? 将来「こうしたい」と思うものはたくさんありますが、どれが成功の可能性の高い道なのでしょうか?
複雑なシステムを構築するために必要な考え方に通称「ガルの法則」と呼ばれているものがあるということを、Daring Fireball の記事から知って、この疑問への糸口が見えた気がしました。
“A complex system that works is invariably found to have evolved from a simple system that worked. The inverse proposition also appears to be true: A complex system designed from scratch never works and cannot be made to work. You have to start over, beginning with a working simple system.” — John Gall
「ちゃんと動作する複雑なシステムは、ちゃんと動くシンプルなシステムから始めは作られる。逆に言うなら、スクラッチから作られた複雑なシステムは決して動作しないし、動作するところまでもってゆくこともできない。そうした袋小路に突き当たったなら、動作するようなもっとシンプルなシステムからやりなおさなければいけないのだ。」 ジョン・ガル
この話がどのように自分の「成長」の話につながるのか? ちょっと長くなるのですが紹介したいと思います。
成長するシンプルさと、行き止まりになるシンプルさ
Daring Fireball の John Gruber は iPhone の成功に関連して、この法則を引き合いにして次のような考察をしています。
One obvious but wrong answer would have been for Apple to start with a phone. That’s what most companies in the mobile handset industry have done and it’s led them to a dead end. The problem is that while successful complex systems evolve from simple systems that work, not every simple system that works can support additional complexity. It’s not enough just to start simple, you have to start simple with a framework designed for future evolution and growth.
アップルが単に「電話を作ろう」という姿勢で臨んでいたなら、それは間違った方向に彼らを導いたことだろう。それは多くの携帯デバイス会社が辿り、行き止まりしか見いだせなかった道のりだ。**問題は、成功する複雑なシステムは簡単なものから始まるとはいえ、すべての簡単なシステムが複雑化をサポートすることはできないということだ。**シンプルにスタートするだけではだめで、将来の進化と成長に向けたデザインがすでに盛り込まれていなければならないのだ。
彼が指摘しているのは、最初の iPhone はアプリを自作できず、多くの機能が抜け落ちていたにも関わらず「手のひらに収まるインターネット・デバイス」というポジションをとっていたために持続的に開発を行い、成長することができたという点です。
個人の成長に当てはめると?
私がこの話を興味深いと思ったのは、iPhone のような製品でなくとも、たとえば個人のキャリア、手に入れるスキルについてもおなじことが言えるのではないかと感じたからです。
たとえば、自分がいま研究で利用しているスキルの多くは、今から 12 年も前に修士論文を書いていたころに身につけたものです。そのほかにも多くのツールやプログラム言語を勉強しましたが、実際に仕事の 80% を可能にしているのは、学んだ知識のうち 20% 程度に過ぎないのです。
つまり今理解することができていない膨大な知識を身につけてから何か大きな仕事にとりかかろうと考えるよりも、むしろ**「自分がいまできること」「一番自分にとってうまくいく」部分を地道に磨く**ことで、その簡単なツールからさらに大きな力を引き出せたわけです。
より多い知識やスキルはあるにこしたことはないのですが、自分の一部分になっていない無駄な知識を網羅的に身につけるよりも、自分に合った、自分の成長をもっとも促す「得意分野」に精力を傾けることがけっきょくは近道になるのです。
このことは創造的な活動やアイディアに関する領域でも言えるはずです。たとえば音楽なら、ギターのコードを全て押さえられるようになってから素晴らしい音楽を作れるようになるのではなく、いま押さえられるコード進行でまずはプロトタイプを作り、常に手を加えてゆくうちに、自分の腕前の成長が音楽の成長と重なってゆくといえばわかりやすいでしょうか。
当然と言えば当然なのですが、「もっと実力をつけなければ」「もっと勉強しないと」と考えるだけで何もせずにいることが自分にもたびたびありますので、こうしたひらめきは背中を一押ししてくれます。
今の自分に何が可能なのか? それを愚直に繰り返すといったいどんな未来が待っているのか? きっと成長の螺旋階段の一巡りごとに、この質問を自問自答しなくてはいけないのでしょう。