知識はデータそのものではなく、その編み目の上で踊る

network.png あなただけの知識のフィールドを作り出す Mac のナレッジ・アプリ | シゴタノ!

「あなたは Mac を使いたくナール、使いたくナール」と呪文を唱えながら書いている(嘘です)シゴタノ!の隔週連載、今回は EvernoteDEVONThink などの「ナレッジ」アプリです。

Mac には前からこうした、テキストでも、ウェブページでも、画像、音声、動画、PDF、ファイルなどを「なんでも投げ込む」ためのアプリケーションがなぜかたくさんあります。

機能が互いに重なりあっているのでどれを使うべきか迷うのですが、選ぶときにもっとも重要視しているのが:

  1. 自分が一番使うデータを大量に扱うのに便利か?

  2. タグであれ、カテゴリであれ、ゆるやかで自分にあった分類ができるか?

  3. 必要なデータを検索したり、スマートフォルダを作れるか?

の3点です。好きなのでよく Evernote を紹介しますが、けっして Evernote が万能というわけではありません。むしろ 2 と 3 について言えば、Yojimbo や DEVONThink 2.0 の方がよい部分があるくらいです。

データを投げ込むときは一つ一つが独立した知識や情報の断片なので、どうしても始めたばかりのころは「知識とはこうした情報の蓄積だ」と考えがちです。

しかし一つ一つの断片よりもむしろ、そうしたデータが結合してネットワークになった編み目の総体こそが知識と呼ばれるものなのだと気づくと急に視野が開けてきます。

日常の手帳のメモも、読書ノートも、投げ込んでおくウェブのクリップにも、**何かつながりはないだろうか?**という目で全てをみるようになってくるのです。

何気ない新聞記事がヨーロッパ中世へと導いた体験

これに関連した、ちょっとマニアックな体験がありました。

かなり以前、とある有名サッカー選手が引退したときの英語記事に「The king is dead. Long live the king」という奇妙な英語が書かれているのをみたことがありました。

その表現はたびたび聞いたことがあったのですが、どうしてそんな言い回しなのかを調べたことはありませんでした。普段だったら何も考えずに読み流していたはずなのですが、調べてみる気になったのは、自分の情報カードにこの表現と出会ったときのメモが複数個あったことを思い出したからです。

そうしたいくつかの断片を組み合わせて調べてゆくうちに、E. H. カントーロヴィチの「王の二つの身体」 という名著へと導かれ、このフレーズが 1422 年に行われたフランス国王シャルル六世の葬儀にまでさかのぼれるということを知ってびっくりしたのでした。

何より楽しかったのは、そうしたマニアックな知識に触れられたことよりも、自分が読んだ新聞記事と、自分の興味と、ヨーロッパ王室の慣習と政治的な仕掛けの知識がすべて一つの線でリンクされたということでした。**これはもう単なるデータではなく、自分の体験なのです。**そして体験は、自分だけの知識なのです。

本来こうした気づきや、情報のリンクには長い醸成期間が必要です。

しかし Evernote や DEVONThink、Yojimbo といったナレッジ・アプリは、大量のデータを投げ込み、緩やかにタグとカテゴリで分類することで、記憶に頼らずともこの醸成過程を加速させることができる可能性があります。

放り込んでいるデータ自体を思い出したいということもあると思いますが、興味をもって何かをメモするときには「これは何と関係している?」という直感をタグに託しておけば、思わぬ編み目が見えてくるかもしれません。

一つ一つのタグとカテゴリは、この編み目を縒る細い糸なのです。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。