朝4時起床の仕事術:「ぶつりの1・2・3」著者・桑子研さんに聞く

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「情報ダイエット仕事術」の後半が「インプット・アウトプット」「習慣術」「成長術」の話題に割かれているのには理由があります。

時間の過剰を削ぎ落としたり、集中力をつけて効率化したりといった「ダイエット」はいわば脂肪を落とすのに似ていますが、そのうえで**「バランスのよい筋肉をつける」**という側面もなければ、すぐにリバウンドが待っているからです。

私の大学の後輩で親しい友人でもある人に、まさにこうした「アウトプット術」「習慣術」「成長術」を見事に体現している人がいます。都内の高校で物理の先生をしながら、現場で手に入れたノウハウをオリジナルの参考書として執筆して、このたび出版された桑子研さんです(著者ブログ)。

私にとって身近な存在だったので今まで聞けなかった彼の仕事の秘密を、出版記念という理由にかこつけて(笑)聞き出すことができましたので、インタビュー形式でご紹介したいと思います。

「朝4時起床」の仕事術

ー 普通に先生だけをやっているだけでも十分に忙しいと思うのですが、本を書こうとおもったきっかけはなんでしたか?

「なにかの本で読んだのですが、30 歳までに本がかけるだけのインプットをして、本を出版しろということを読んだことがあって、それがどこかで頭に残っていたんです。

「自分は高校で物理を教えているので、現場のノウハウとして高校生の、特に女の子がつまずく箇所がわかっていました。そして今の多くの参考書は、たとえ話が下手なせいで分かりにくくなっていると思ったので、それを変えてやろうと思ったのです」

ー 普通に働いている人がいきなり「本を出そう!」と考えてもまずその時間がなかったりすると思いますが、それはどうやってクリアしたのですか?

「自分の場合、朝4時に起きて、朝の5時から6時に駅前の24時間やっているマクドナルドにいって執筆するということを習慣にしていました」

ー 朝の4時! どうやって早起きするのですか? そして前の晩はいつ頃眠るの?

「自分のアパートのお風呂がタイマーで自動で入れられるようになっているので、朝4時にお風呂が入るようにして、寝ぼけながらも飛び込んで目を覚まします。そこで本などを読みながらウォーミングアップをするんです。

「夜は11時から12時の間には就寝しています。睡眠を削っているようにみえますけど、夜はけっこうリラックスをしてから眠っているのでそれほどの苦労ではありません。

「あと、昼に場所を見つけて 15 分ほど昼寝をするようにしています。教員会議などでこの時間がとれないと、午後の仕事は格段にきつくなります」

ー シェスタの効用はいろんなところで紹介されていますけど、『早起きを支える』という役割もあったんですね。仕事の準備等は?

「6時までが執筆なので、そこから 20 分ほど離れた仕事場に行き、さらに一時間を教材研究に充てています。」

ー 夜更かしをしてしまう人というのは「明日の朝にやっていたら寝坊したり、時間が足りなくなるかもしれない」という不安が先に立って夜に仕事や作業をかかえこむと思うのですけど、そんな不安はなかった?

「職について1年目は大変でしたが、2年目になると教材の蓄積があるので『朝の1時間』と時間を区切って教材研究をしても問題がなくなりました。また、朝の執筆それ自体が教材研究になっているんです。

「そうはいっても一日にどれだけ仕事があるのか目安がついていないと執筆に専念できませんから、朝の10分を使って今日一日の仕事、特に『学校についたら何をする』『実験室でやるべきこと』『机でできること』といったように ToDo を書き出しておきます。たったこれだけのことでも、無駄な移動が減って、一日に出来ることが増えました。

「一方で、朝に執筆をすると一日中そのことが頭のどこかにひっかかっているので、執筆していないときでも構想を練ることができるんです。こうした昼間のアイディアをすかさずメモにとるようにしていたら、ノート10冊分にもなりました」

ー すごい! 朝の 10 分が仕事時間の数十分を稼いでいて、仕事時間の間の発想が朝の執筆を助けているというのは不思議な感じもしますね。それに夜にたくさんの時間を作ってじっくり書くよりも、朝の短い時間を使った方が効率がいいというのは聞いてて驚きです。

まずアウトプットありき

ー 出版社は完成品ができてから探したのですか?

「自分では完成品だと思っていたんですけど(笑)あとでずいぶん書き直すことにはなりました。でも『これならいける!』という現場の高校生のニーズがあるテーマを書いていましたから、その部分に関しては自信がありました。

「でも3つの出版社に原稿をもちこんで、一つの会社で企画が通って残り二つをお断りした矢先に、不慮の出来事で企画が中止になったんです」

ー うわあ、それはきつい。

「とてもがっかりしたのですが、もともと困っている高校生のために書いているものなんだからと思い直して、教材を全部ウェブに公開することにして原稿にゆっくりと手をいれていたんです。

そうするうちに、今の出版社と縁ができて出させていただけることになりました」

ー 地道にアウトプットを続けることが、この本につながったんですね。

「プロで仕事をしている以上、誰もが何かしらのネタをもっていると思うんです。でもそれを出すか出さないかという違いだけなんですね。勇気をだしてアウトプットしてみると、『あれ? 出ちゃうんだ?』というくらい、あっけなく感じると思いますよ(笑)。

「あと、本をだしてみたら周囲の人から「え? そんなことしていいの?」という反応が返ってきたのも面白かったです。自分は先生になってまだ3年目ですが、そういうことはもっと年季の入った人が地道にやるものだと思われてるみたいです。

「でも今持っているもので何かを作って、そしてまた数年後にまたもう一度書き直したりと、そんな風に続けていけるものなのかなと思います。」

ー ものすごく参考になりました。ありがとうございました。

物理学科を卒業した私には、桑子さんの教科書はまさに驚きの一冊でした。

物理が得意だった自分にとっては公式の使い方や、力のつりあいといった概念は簡単でしたが、それを苦手とするひとにはどうやって説明すればいいのかは想像もつきません。

桑子さんの教科書はきっと中学生・小学生でもわかるくらいの簡単な数学とイラストの力を利用して、文系の学生がセンター試験で必要とする力学の概念をすべて描いています。

現在も桑子さんは朝4時起床を続けながら、センター試験に登場するもう一方の課題「波動」についての教科書を執筆中だそうです。今朝も朝5時にメールが来ました(笑)。

会ってみると普通の好青年で、才走った感じがまったくしない周囲の人気者の桑子さんですが、そのプロダクティブなスタイルを維持しているのが、効果的に日常に加えられたちょっとした時間管理と早起きの習慣だったというのに非常に感じ入りました。

週末のくつろいだ時間をつかってインタビューに答えてくれてありがとうございました。今度おごりますよ!

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。