[Lifehacking Diary] 「成長」とは振り返った足跡のこと

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昨夜は職場から帰り、夕食と雑用をすませ、2時間だけ仮眠をとると、もう一度職場へと車を急がせました。

人気のない大学の構内。警備員の方も仮眠をとっていて、建物はひっそりとしています。暖房をかけるのですが、どんなに強くしても冷気は収まりそうありません。時刻は午前2時。私はとても緊張して母艦の Mac の前に座っていました。

あと半時間で、サンフランシスコにいる 43Folders の Merlin と Skype を利用したインタビューが始まるのでした。本来は私が渡米するはずだったのですが、さまざまな事情でそれが取りやめになり、仕方なく時差を越えた深夜のインタビューとなったのでした。大学に来たのは、自宅の細い回線では不安だったからです。

英語のインタビューは GTD の David Allen さんの時以来、2度目ですが、今回はその時以上に緊張していました。というのも、Merlin はこのブログをそもそも始めたきっかけを与えてくれた存在でしたし、この4年間もっとも会ってみたいと思っていた相手だったからです。彼と話せるところまでブログを成長させること。これが Lifehacking.jp を解説した多くの理由のうちの一つでした。

時間はたったの 30 分。話題に取り上げたい記事を全て印刷して要点に下線を引き、会話のきっかけになる話題や、最初と最後の挨拶を情報カードにまとめて目の前に並べながら、「いったいどうやってここまで来たのだろうか?」と自分には不思議でなりませんでした。

小さなことの繰り返し、それだけが未来を引き寄せてくれる

ブログを始めた当初も、そして今も、私は生産性の高い、仕事が誰よりもできるスーパーマンというわけではありません。思い描いた夢や目標を全てかなえてきた「成功の人」というわけでもありません。むしろ、並な成功と、どうにもならない敗北とを同時に味わっている普通人だと自分では思っています。

しかしこの一年で、ブログを通して大勢の人に知り合えたこと、自分の考えていることを一冊の本に出来たこと、そして Merlin に話すチャンスを与えられたことなどは、2年前の自分には実現のあてもなかった「夢の実現」そのものです。

自分が成長できたという自信はありませんが、「2年前」と「今」とで何が変わったのかということを一つだけ挙げるなら、それはこの期間に 545 件の大小とりどりのブログの記事を書いたということだけです。自分自身が、2年前の自分以上の何かに「成長」できたという自信はなくても、書いた分だけ確実に未来を引き寄せることはどうやらできたようなのです。

ここで思い出すのは、たとえば砂浜を前に向かって歩く時のことです。正面をむいて歩いているだけでは、どのくらい歩いたかを実感できないことがありますが、振り返ったときに見える足跡が長く、一直線であればあるほど、私たちは「遠くまで来たなあ!」と思うことができます。

「自分には実績がない」「自分は何者でもない」こんな気持ちになることが私にも頻繁にありますが、そんなときに「いや、自分はこれだけの論文に目を通した」「これだけのプログラムを書いてきた」という具合に数値化した「行動の繰り返し」つまりは足跡が見えるようにしておけば、こうした不安な気持ちが少しは和らぎますし、やがては積み上げられた経験が必ず、わかりやすい「成長」の証拠を生み出します。しかし何も手がかりがない時は、とりもなおさず、自分の背後の足跡を信じること。これが始まりなのではないでしょうか。

「背後の足跡を意識すること」先に道がないような不安な時代に、もっと多くの人に伝えたいことかもしれません。誰もが、不安な心がそう信じさせようと思うほどには無力ではありません。そしてどんな人もその背後の足跡の長さ程度には「成長」を手に入れているのだと確信できたら素晴らしいのに、と思います。

午前2時半、約束の時間に、Skype のアイコンが Dock の中で跳び上がって踊り、多くのポッドキャストを通して一方的に聞き慣れたあの声がスピーカーから聞こえてきました。

「エディーかい? はじめようか」

「もちろん」

緊張のあまり蚊のような声で英語を絞り出しながら、自信のなさも不安もそのままに、ただひたすらにこの一歩を踏みしめようと思いました。成功にせよ、失敗にせよ、それは明日にはまた背後の一歩の足跡になるのですから。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。