「知的創造のヒント」外山滋比古(ちくま学芸文庫)
本棚から引っ張りだして、ここ数日の旅先で開いていたのが、「思考の整理学 」 と「『読み』の整理学 」 という二冊の名著の著者、外山滋比古先生が 30 年も前に書かれた「知的創造のヒント」でした。
外山先生の本は、ライフハックという言葉が生まれるずっと前からその本質を射抜いておられ、著書には知的創造に必要な心構えとテクニックが惜しまず盛り込まれています。
「思考の整理学」は思考と発想の広げ方と収束のさせ方を、見事な連作エッセイのような形式で論じ尽くした本ですが、「知的創造のヒント」はその前景となる「アイディアの作り方」という話題をもっとざっくばらんに書いた本になっています。
発想のためには忘却が必要であること、妙想を生み出すために比喩の力を借りなければいけないこと、あえてアイディアの種を寝かせて時が至るのを待つべきことなど、「思考の整理学」を読んだ人ならなじみのあるテーマが、より自由な形で提示されています。
後半はこうして生み出したアイディアをどのようにしてメモしたり、整理するかという実際的な話題にも触れていて、難しいテーマについて書かれているのにも関わらず、取り組みやすい本となっています。 どこからでも読むことができる構成となっていますので、「思考の整理学」はどうも読めなかったという方は、あるいはこちらを先に紐解いてもらうと良いのかもしれません。
久しぶりに再読して感動すらしたのは、全編を通して知的創造への真摯さがみなぎっていたと感じたことです。特に2章「自力と他力」で、権威あるアイディアや考え方を寄せ集めるだけの折衷的な仕事は、本当の意味での「創造」ではありません、という下りを読んだときには、思わず姿勢を正さずにはいられませんでした。
こうした「知的創造」の態度は、学者だけに重要なものではありません。ナレッジ・ワーカーとして「新しい価値」を生み出すことを求められている現代の労働者は、多かれ少なかれ、誰もが「知的な創造」を求められているからです。
お定まりの学術用語、プログラム言語、仕事や研究の手続きを寄せ集めて、あり得る限りの組み合わせを作り上げては「進歩」とか「イノベーション」と呼んでいるようでは甘いですよ! と、本書を通して叱咤されている気がしてきました。
本書は Amazon などでも絶版になっていますが、古本屋などでは割と見つけることが可能ですので、興味のある方はぜひ探してみてください。
修正:ちょうど今週、講談社ではなく、ちくま学芸文庫から再版されたそうです。やった!