「一歩先」のライフハックへ

notes_on_wood.jpg Four Years | 43Folders 43 Folders: Time, Attention, and Creative Work | 43Folders

ライフハックの否定? いいえ、ずっと読んできた私には「脱構築」に見えます。

ライフハックブームの火付け役でもあった 43Folders がついにブログのテーマを変えます。新しいモットーは、“Time, Attention and Creative Work” で、「生産性」から「時間とアテンションを守る」という方向へテーマ替えを行ったというわけです。

それに先駆けて、ブログの方にはこの4年間を総括した記事が公開されており、無名の状態からどのようにしてインターネットで最も読まれているブログの著者となったか、そして本人の気持ちとは裏腹に「生産性」の権化のように祭り上げられてゆくことで感じた矛盾などが赤裸々に、皮肉もたっぷり交えて書かれています。注目したいのは次の場所。

I also realized from the beginning that the real life hacks were about making your way from a place that’s chaotic and depressing toward someplace where you feel more competent, stable, and alive. A place where you eventually may not need the life hack any more. I wanted to figure out why this stuff did and didn’t work by living inside of it, and by filing real-time reports about what I learned — effectively operating on myself in public with a keyboard, a handful of index cards, and an infinite IV of French Roast coffee.

僕が最初から気づいたのは、「本当のライフハック」というのは混沌として気鬱になる現状から、自分の力を信じて、気持ちを落ち着けて、生き生きとできる場所へと移行するためのものだということだ。そこまでいけば、もはやライフハックなるもの自体が必要なくなる、そんな場所のこと。僕はこうしたものがどうしてうまくいくのか、あるいはうまくいかないのかを、実際に試してみることで知りたかったし、同時に自分が学んで行く様子を紹介したいとおもった。公衆の面前で、キーボードと、ひとつかみの情報カードと、際限ないフレンチ・ロースト・コーヒーだけを武器にして。

これはライフハックを「人生の松葉杖」としている考え方で、ほとんどの人が同意するのではないでしょうか。

私も「ライフハック」なるものは、「ハック」自体が問題なのではなくて、「自分を変えるための手段」なのだと思っています。

自分だって、いくら便利なハックを並べてみたところで仕事がうまくいかないことはいくらでもありますし、時間を無駄にして「ああ…」と嘆息することが数えきれないほどあるからです。ただし、「こういうことに注意すれば、次からはうまくいくかも?」という補助として、たくさんのハックを収集しているわけです。

Merlin は他のライフハックブログに対して非常に辛口の発言をしていて、後発のライフハックブログのほとんどがブームに載ってアフィリエイトでお金をかせごうと考えているだけだと難詰しています。

ほとんど他人の役に立っていないか、役に立っているように見せかけながらも、実のところは劣等感を適度に刺激しては症状を和らげるクリームを売りつけるような偽善的な活動の繰り返しだというわけです。自分にも身に覚えがないとは言えません…。

Merlin は最終的に「ハック」という言葉自体を、何か役に立つ薬のように広めてしまったことに罪悪感を感じているという具合に書いています。

At this juncture, I wish to apologize and formally atone for any role 43 Folders or I have had in popularizing “hack” as the preferred nomenclature for unmedicated knowledge workers dicking around with their “productivity system” all day. 43 Folders regrets the error.

この場をかりて、「ハック」という言葉を中毒状態のナレッジ・ワーカーが一日中「生産性のシステム」をいじくりまわすことをかっこ良くいうための用語として広めてしまったことについての、私、あるいは 43Folders の役割について謝罪したいと思います。今は反省しています。

ライフハックの父のような人が、ハックを否定。これから、どうなってゆくのでしょう?

時間・アテンション・才能の開拓

43Folders の「改心」はなにも今に始まったことではなく、去年からゆっくりとこちらの方向に動いていました。今後も、かれはこうした「時間と、アテンションと、クリエイティブに生きる方法」というテーマで書き続けるそうです。

私自身も、Gihyo.jp の「ライフハックの『今』」という記事で触れた通り、もう一度「無駄を省いてより幸せな人生(ライフ)に生きるための,自分を変えてゆく習慣作り(ハック)」への集約が必要だなあ、と常々考えているところで、そのための方向性を探しているところです。

そういう方向性で、「ライフハック」という言葉自体を否定してしまうのではなくて、もう一度意味をとらえ直すのが、「一歩先」のライフハックだと感じています。

きっと来年にはないウェブサービスや、非常に限られた場面でしか意味をなさないハック、目を奪うだけのテクニック、他人に一瞬だけ「へえー」といってもらえるけれども5分後には忘れられているような小技は、なるべく排除して、本当に有用な物に集中するための考え方や、ワークフローの話に特化していけたらなあ、と思っています。

メタな話に終始してすみませんが、この話題、もう少し総括して別の場所で書きたいと思います。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。