GTD 再入門 (6) ときには、人生のすべてをレビューしてみよう

イベントやら、インタビューやらでぐだぐだになってしまった GTD 再入門の連載ですが、David Allen さんから多くの考察を得たことですし、あとは具体例を付け足して、3回で完了させようかと思います。

私がよく聞かれるのが、「週間レビューをどうしていますか?」というものですが、実はけっこう私の週間レビューは不定期で、必要に応じて回数を増やしたり減らしたりしています。

長さもけっこうまちまちで、「当面のあいだ心を軽くするために必要なすべてをキャプチャーするだけでいいや」と、手早くレビューをすませることもあれば、「今日は本腰をいれて全てをレビューするぞ」という場合もあります。

後者を私はグランド・レビューと勝手に読んでいて、時間があるときの楽しみになっています。

マインドマップとカードを広げて、身の回りのものを片付けつつ、ニコニコと空想にひたっているかのようにリストを埋めている様子は、端からみたら変に見えるかもしれません。でも人生のすべてを一つのマップにおとしこんでゆくのはそれほどまでに楽しいのです。

今日はそんな私のグランド・レビューの様子を順序だてて書いていこうかと思います。いつもこの通りにやっているというわけではありませんが、参考になれば幸いです。

3つの地平:役割・時間・重要性

まず GTD 的に人生をレビューする目的は、**「手近なイベント、タスクに取りこぼしが無い」という状態と「長期的で重要な事項とのアライメントができていて、自分の向いている進路にほどほどに満足がいっている」**という確認をするためです。

このレビューを行うために、自分の心のなかを3つの軸でスキャンしていきます。それは役割、時間、そして重要性という軸です。

まずは人生を形作っている全ての役割(Role)について、一つずつ考えていきます。「7つの習慣」で定義している役割とまったく同じものですが、研究者としての自分、ブログ執筆者としての自分、趣味の**としての自分、夫としての自分、家族としての自分、同僚としての自分、部下としての自分、一人の人間としての自分、といったものの定義がブレていないか考えます。これが水平方向の地平になります。

次に時間方向の地平、つまり「すぐに実行」「ある時点で実行」「いつかしたい」の3つのリーチですべての役割において取りこぼしたアクションがないか考えていきます。時間に拘束されたタスクはカレンダーに吸い込まれ、「とにかくすぐに」というタスクは OmniFocus に吸い込まれていきます。

最後に「価値観」「重要性」という奥行きの地平を持ち込んで、「このタスクはそもそもやるべきなの?」というふるいにかけて容赦なく重要性の低いタスクは殺していきます。ここがマインドマップの入ってくる場所ですね。

細かいチェックリスト

それぞれの地平のそれぞれの部分では、細かいトリガーリストを念頭に、タスクやアクションを頭の中から絞り出していきます。

GTD の原本でも詳細な「トリガーリスト」は紹介されていましたが、一人一人が自分のリストを作って、忘れがちなものを思い出すようにすると良いでしょう。人の数だけ、人生の多様なタスクの模様があるからです。

私のチェックリストの一部を整理すると以下のようになっています。全然 MECE できていませんが、これは心からタスクを引き出すためのものなので、私にとってはそれはそれでいいと思っています。

上司との間で確認すべき事項:チームにおける役割、次に期待されているタスク、報告すべき事項、まかされている事柄について、連絡方法・連絡するシチュエーションの確認

同僚との間で確認すべき事項:仕事の分担についての合意、お互いの役割に関する理解、連絡方法・連絡するシチュエーションの確認

メール:返信していないメール、送るべきだけど送っていないメール、添付ファイルをしまっていないメール、コンタクトをアドレスブックに移していない人、まだ片付いていないタスクと付随したメール

ファイル:現在進行中の仕事と関連したファイルの置き場所確認、けっして失ってはいけない重要ファイルの確認、持ち出し禁止の重要ファイルの確認、バックアップの確認。ファイルについては特に、「2度と使わないゴミファイルか」「進行中の仕事ファイルか」「時系列順にアーカイブすべきものか」「テンプレートとして時間を越えて利用すべきものか」の判断を行なう

文具:書く、切る、貼る、測る、挟むなどの基本オフィスアイテムは十分あるか? 現在必要だけれども切らしているものは無いか? システム手帳のリフィルや、情報カードなどは各種取り揃えているか?

Mac:バックアップはとれているか? アップデートされているアプリはないか? Mobile Me のシンクロに問題がないか? ゴミファイルを捨てたり、改善できる点はないか?

引き出し・本棚:アクションが付随していないものが引き出しにたまっていないか? すでに捨てる・アーカイブすべきものが引き出しにないか? レシート、航空券の半券、書類の断片、使ったあとの情報カードや付箋、所定の「駐車場」があるのにしまい忘れた文具・カード・ペン・ケーブルなどの無用の品々

個別フォルダ:進行していないプロジェクトのフォルダが無いか? レファレンスをしまい忘れているフォルダは無いか? もはや進行させる意味のないプロジェクトのフォルダが置いたままになっていないか? 統合・分割・刷新すべき個別フォルダーが化石になって堆積していないか?

仕事全般:自分が引き受けている責任について確認、すすめるべきプロジェクトとミッションの確認、リスクの確認、締め切りの確認、不安に思っていることや不足していると思っていることの確認(→ 対処を R&D したり、相談する)

家庭全般:家庭で引き受けている責任、約束したことの再確認、先回りして家族のためにできることのサーチ。収入・支出についての不安がないか確認。保険・貯金・投資・返済・税金など、将来に向けて考えるべき事項はプロジェクト化されているか?

個人一般:満足な人生を生きているか? 満足でないなら、何からハックすればいいのか? 健康・趣味・家族・友人・仕事のバランスに問題はないか? 覚えておくべき記念日・旅行の計画・手紙・電話など、他人との交流においてスケジュールすべきものはないか? 学んでおきたいと思っていることはないか? 実行したい活動はないか?

個人雑用:身の回りで修理の必要なもの、買い替えが必要なもの、考慮を必要としているものはないか? じゃまなもの、ストレスを生じさせているもの、困ったものについてとることのできるアクションはあるか?

個人超越:現在の1週間、1ヶ月、1年間の計画に居心地の悪い点はないか? 「すべき」ことと「やらないといけない」と思い込んでいることを混同していないか? 人生レベルのマインドマップに、修正すべき無理な枝はないか? そもそも、君は幸せか? 人を幸せにしているか?

これ以外にも、ブログ専用のチェックリストなど、目的に応じたものはありますが、なんとなく雰囲気はわかってもらえるとおもいます。

「うへえ、スペース・シャトルを打ち上げるんじゃあるまいし、こんなに長いリストに目をいちいち通しているのか!?」と言われると、ここまで書いておいてなんですが、実はほんとうに目をこらしてリストに目を通すことは稀です。

こうしたチェックリストは頭が鈍くなっていて、「なんか思いつかないなあ」と思っている時に取り出す類のもので、慣れてくるとけっこうさらさらとでてくるものなのです。楽しいから体が覚えているのかもしれません。

前にいちどやってあれば、マインドマップや、プロジェクトリストの形でテンプレートが出来ていますので、なおさら見通しは付けやすくなります。

来週は実際に、毎日 GTD を実践しているときのツールなどについて紹介したいと思います。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。