GTD 再入門 (2) あなたの頭脳の中の高速道路
当たり前の話から始めましょう。
車がほとんどいない道路と、他の車で混雑している道路では、どっちの方が存分に加速ができるでしょうか? もちろん前者ですね。
では、車はけっこういるのですが直線で見通しがついていて他の車の動きが予測できる高速道路と、道が曲がりくねっていて、他の車の動きも予測しづらい道路ではどうでしょう? やはり、前者の方が走りやすそうです。
最初の例は、「やることが少ない」VS 「やることが多い」という例だと思ってください。単にやる事が少ない方が効率がいいという場合です。それに対して次の例は「GTD がうまく導入できている場合」VS 「GTD がない場合」と言えます。車の混雑の度合いも性能も変わらなくても、走りやすい道をつくれば加速できるという例です。
このように GTD はあなたの能力を高めてくれる魔法のような方法を提示する訳ではなく、単に走りやすい道路を造るものといってもいいでしょう。そしてこの道をつくるのが、今回紹介する「収集」Collection という手続きです。
モノとオープン・ループ
前回の食器棚の例からも解るとおりに、「やるべきこと」「忘れちゃ行けない事」であふれた頭は整理がおぼつかず、ストレスがたまる一方です。
GTD の原書をあらためて読んでみると、David Allen はこうした「やるべきこと」という、私たちの注意を引いている全てのモノ「Stuff」を次のように定義しています。
Anything you have allowed into your psychological or physical world that doesn’t belong where it is, but for which you haven’t yet determined the desired outcome and the next action step
あなたが自分自身の心理的・物理的な世界に迎え入れたもので、まだあるべき場所に収まっておらず、それをどうするつもりなのか結論かあるいは「次のアクション」を決めていないもの このように、モノとは単にやるべき仕事というだけでなく、しまい忘れたハサミ、投函すべき封筒、電話するべき用件、支払いをしなければいけない請求書、誰かに伝えるべき言葉、単にもやもやとした心配事、その全てが当てはまるわけです。
そしてそれらが「あるべき姿になっていない」つまり、ハサミがしまわれていて、封筒がすでに投函されていて、電話が完了し、支払いが済んでいて、誰かにちゃんと連絡がついていて、心配事に目が行き届いている、という状態になっていないために、私たちの心のなかには David Allen のいう「オープン・ループ」、未解決の状態が生み出すストレスが、まるで動きの予測が付かない車であふれた道路のようにわき出してくるのです。
では、どのようにしてこの道を高速道路に変えればいいのしょうか?
ユビキタス・キャプチャー
David Allen はこうした「モノ」であふれた私たちの頭を整理するには、信頼できる外部のシステム(Trusted System)にすべてを預けることが重要だと指摘しています。
仕事が何も進んでいるわけではないのに、ToDo リストを作っただけでやるべきことがクリアになって落ち着きを取り戻せたということを経験したことはないでしょうか? これを仕事・家庭・生活のすべてについて行なうのが、GTD の「ユビキタス・キャプチャー」といわれる手法です。
「自分はやるべきことを全部記憶できるよ?」「どうしてこんなことをしなければいけないの?」と感じられる人もいるかと思いますが、私たちの頭脳はそれほど都合よくできてはいません。
というのも、私たちの頭脳は非常に優秀な処理能力を誇る一方で、「切れている家のお風呂の電球をなんとかしなきゃ」ということが仕事場でさえも気になり続ける程度にはどこか間が抜けているからです。
すべての気になるモノを頭の外に追い出すという GTD の手法は、頭を空にする事で家のタスクは家の ToDo リストに、仕事のタスクは仕事のリストに、という具合に私たちの頭脳が不得意なタスクの交通整理が行なう事をします。そして「いま」「ここで」実行できる事だけに集中できるという環境を作ってくれるわけです。
いうなれば、冒頭の最初の例、頭の道路のなかから「車」の数を減らして、効率を良くする事に対応しています。
次!、次!、次のアクション!
もう一つ「モノ」の定義で見逃せないのが「どうするつもりなのか、次のアクションを決める」という下りです。
ハサミでしたら片付けて終わり、封筒でしたら投函して終わり、ですが、「いま抱えているとても大変で面倒な仕事」というモノはどうでしょう。
こうした困難なタスクでも、人間の頭脳はどのようにすればそれを解決できるかをちゃんと見極める事が可能です。しかし問題はやはり、「あれをやって、これもやって、次にあれもやらないと…」といったように、今すぐに取りかかれない事であっても気になって仕方がないという点です。これも、オープン・ループの一種なのです。
GTD ではこうした複数ステップかかるタスクについては、とにもかくにも「次のアクションは何か?」という決断だけを下して、それをキャプチャーしてゆきます。
こうすることで、冒頭の例でいうと後者の「曲がりくねった道」よりも「見通しのついた」道が出来上がり、能力的には何も変わらなくてもさらに高速に移動できるようになります。
ツールは何を使うか
頭を空にするユビキタス・キャプチャーの習慣を実践するには、さまざまなツールを使うことができます。原書に載っているものと、その後に発展したキャプチャー用のツールとしては以下のような物が挙げられます。
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紙
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Outlook などのカレンダー、タスク管理ソフト
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GTD 専用ソフト: OmniFocus, iGTD, Things, Thinking Rock など
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ウェブアプリケーション: Check Pad, Remember the milk など
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携帯電話:
GTD が流行してから GTD 専用アプリも、ウェブアプリもたくさん開発されて、それぞれが GTD 対応をうたっています。
しかしどんなに便利なアプリケーションがあっても、鍵となるのは、**「自分のタスクが生じる場所でそれを即座にキャプチャーできるか?」**という一点になります。大事なのは、最新のウェブアプリを使う事ではなく、自分のタスクと相性が良いかという事なのです。
向き不向きもありますが、私は GTD をはじめる人にはまずは紙で頭の中のオープン・ループを細大漏らさず書き留めてみる事をお進めします。
紙はどこでも使え、信頼できる媒体である一方で、ちょうどいい不便さがあるからです。パソコン上のファイルだとすぐに無用に複雑になりがちなタスクリストも、紙なら手で書く煩雑さがちょうどよい制限になってくれます。
来週までの宿題
宿題というと変ですが、自分も GTD をもう一度再認識するために、次の一週間は次の1点に注目して実践をしてみたいと思います。GTD を始めたばかりの人も、もう慣れてきたという人も、ぜひ試してみてください。
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GTD ビギナーへ: 毎日紙に仕事であれ、個人的なことであれ、「やらなければいけない」と考えていることをすべて書き出して、そのリストを常に持ち歩いてみてください。
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GTD 経験者へ: ユビキタス・キャプチャーについては当然経験していると思いますが、あなたのキャプチャーの頻度、ツールは最適になっているでしょうか? 1週間のキャプチャーを別のツールにしてみて、なにか変化は無いでしょうか? 無理をして GTD アプリを使っていたりしないでしょうか?
次回は「収集」の次の話題、GTD のワークフローの神髄「プロセス」の部分に筆を進めたいと思います。