オバマ上院議員の演説に達人の技を見た!
オバマ議員のアイオワ州での勝利スピーチがすごい。
政治的な中身は別にしても、構成とメッセージ性でこれほど秀逸に作られたスピーチはここ最近なかった気がします。スピーカーで聴いていたら、英語をほとんど聞き取れない家内が興味を持ってやってくるほどでした(笑)。
今回オバマ議員が制したアイオワ州党員集会は今後の候補者指名の重要な通過点となっています。アイオワを制したとしても最終的な候補になれるとは限らないのですが(実際、クリントン元大統領はアイオワでは3位でした)、5日後のニューハンプシャー州の予備選挙を前にオバマ議員がこのチャンスを最大限活かそうと努力しているのは明らかです。
たった14分間のこのスピーチには、キング牧師やケネディ大統領のスピーチを十分に研究した構成、候補者指名と大統領選挙を見越した戦略性、そして浮動票に訴える強いメッセージ性のすべてが入っていてうならされます。
政治的な内容はさておき、この完璧なスピーチの何がすごかったのかを分解してみます。
構成
約 14分間のスピーチは全部で4カ所に分かれています。
1. 最初の6分ほど:「みなさんは今日、アメリカは分裂しているべきではないと声を一つにした」「みなさんは今日、大企業やロビイストではなく、普通の人が主役なのだと言ったのだ」という具合に、「私が」ではなく、票を投じた「あなたたちは」という聞き手を主役にすえる文章が続きます。「あなた」= 「聴衆」に主眼をおくことで、聞き手を引き込むテクニックです。 また、ここでは時勢は「完了形」であることにも注目です。
2. 中盤の2分ほど:「今日票を投じてくれた人、スタッフ、家族に感謝する」と、感謝の言葉をいれて話をいったん切っています。これはスピーチの最後にもごもごと謝辞を言わなくてすむようにするためであるとともに、観衆に声援を送らせて話題を切り替えるチャンスを作る、構成上の一石二鳥のテクニックです。
3. 後半の4分ほど:「みなさんはいつか今日、この日、この場所で、歴史がかわったことを思い出すだろう」と繰り返し同じメッセージが繰り返されます。ここから文の主語が少しずつ「あなた」から「私たち」にシフトしています。また、聴衆に私が大統領になれば未来はこうなるだろう、という具合に文の時勢が「未来」にシフトします。これはもちろん、ニューハンプシャー州と大統領選挙をにらんだ未来形です。
4. 締めくくりの 2分ほど:「希望とは、アメリカの礎である。それはよりよい未来を作れるという確信であり、共和党と民主党に分裂したこの国を、そして世界をより正しい方向に導けるという信念なのだ」という「希望」に関するメッセージで締めくくります。感情に訴える表現は、(事実であるかどうかは別として)これまで共和党支持者だった人と、若い人々を動かすためのものです。事実、今回のアイオワでは30歳以下の党員の65%がオバマ議員に投じているので、自分は分裂したアメリカをまとめあげる人間なのだと言うイメージを植え付けることで、浮動票を取り込む戦略です。
4カ所に分けてあるのは一つの話の流れを長くても3、4分にして、流れをつかみやすくするための工夫だと考えられます。 主語が「あなた」から「私たち」に、時勢が「完了形」から「未来形」にシフトしているのは、まず今日の成果をおさえて、次に5日後に向けて自分が「私たち」の統率者だというイメージを作り上げようとしているのだと考えられます。
戦略性とメッセージ性
途中で、「自分はケニア出身の父とカンサス出身の母をもち、この国以外ではありえない道を辿ってここにきた」と韻を踏んで呼びかける文がありますが、これは自分がワシントン官僚寄りではなく、中産階級寄りの人間だというイメージを植え付けようとしてのものです。暗に、いつもワシントン寄りだと言われているヒラリー上院議員を落とす効果を狙っているようです。
「いつかこの日を○○の始まった日だと思い出すだろう」という文脈は、自分が未来の大統領となることがあたかも予定調和であるかのように印象づける効果をもっています。論理的に解きほぐすと、そうでなければいけない理由は何もないのですが、アイオワ州での逆転勝利が実は予定調和なのだと印象づける戦略は、それを聴いているニューハンプシャー州の党員に強い効果を持ちそうです。
また「 いつかこの日を○○の始まった日だと思い出すだろう」という文章を繰り返すのは、キング牧師の有名な I have a dream のスピーチにもみられる技法で、単純なメッセージを繰り返すことで共感のクレッシェンドを高めていき、最後に一気に結論になだれ込むというものです。聴衆がのってくるときには、これはものすごい大きな効果があります。
よーく論理的に読んでみると、オバマ議員のスピーチには論理の飛躍や、現時点で保証できるはずもない約束をしている部分がたくさんあるのですが、人は見た目が9割という理屈でいくなら、このスピーチをきいて心を動かさない人はなかなかいないでしょう。
見た目9割のイメージ喚起力と、首尾一貫した論理的バックアップを併せ持っているスピーチが最強のものだとあらためて思いました。
ヒラリー上院議員に対して劣勢だといわれていたオバマ議員の躍進でずいぶん面白いことになってきました。オバマさんは私の出身地のイリノイ州の議員なので、単にそれだけの理由で応援したくなるのですが、これからどうなるのでしょうか。