[Books] フロイトで自己管理:齋藤孝(角川書店)

齋藤孝教授の文章からはいつも若々しさを感じます。書いている文から、人の成長に対する強い信頼や、それを助けようとする熱意が感じられるのと同時に、「三色ボールペン情報活用術」 (角川oneテーマ21)「原稿用紙10枚を書く力」 (だいわ文庫) に見られるような実際的な利点もちゃんと押さえた構成となっているのが、いつも本を買って読んでしまう理由です。

最新の著書「フロイトで自己管理」は、精神分析の創始者であるフロイトの基本概念を援用しつつ、現代を生きる私たちがどのようにして自分のコンプレックスと向き合うか、自己コントロールを行なうかという題材について書かれています。

フロイトの心理学というと、快感原則やコンプレックス、夢を通した抑圧された無意識の分析、超自我などの概念が思い出されますが、本書ではむずかしい心理学はさておき、「ざっくりと」フロイトを導きの糸として自己管理のヒントを探していきます。

たとえば「コンプレックスと折り合う」という章では、生まれ持った特質や境遇などのコンプレックスが、本人にとってマイナスに働くだけではなく、自分を成長させてくれたり成功を与えてくれる原動力になりうることを示した上で、コンプレックスとの調和を時間をかけて行なえばよいということを説いています。

また「自分」というものは「自分が自分自身であると意識しているもの」の総体なのではなく、無意識もまた「自分なるもの」を裏から支えているというフロイト心理学の核心を通して、正確な自己認識のためのヒントを「ひがみ」や「こだわり」といった、誰の心理の中にもあるひっかかりから解き明かしていきます。

いつもの齋藤孝先生の本らしく非常に読みやすい反面、構成上ときおりフロイトはどこにいってしまったのだろう? と思うくらいにフロイト心理学そのものの解説などからは遠ざかる章もあります。でもそれはあくまで本書が「自己管理」のヒントを得るための本であって、心理学の本ではないためですので、そのあたりは念頭において読んだほうがよさそうです。

自分の心理を、無意識を意識におさめれば、「自分」というものはさらに面白くなるのだなと目が開く一冊でした。コンプレックスはどう解消すればいいのだろう? 自己コントロールをマスターするにはどうすればいいのか? といったことに興味がある人にお勧めです。

私自身が一番ぐっと引き込まれたのは「フロイトも実践した『三日間で天才的な作家になる方法』」という節ですが、まさにユビキタス・キャプチャーの話になっています。フロイトもやっていたのか…。だから一人であんなに本がかけたのか…。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。