一歩進んだライフハックへ (2) 自分自身と再契約する

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正直に言いましょう。「7つの習慣」が勧めるようなミッション・ステートメントを書いていつも持ち歩いている人はどのくらいいるのでしょうか? 私はミッション・ステートメントをいつも手帳に入れてますが、いままで何度もミッションが形骸化するという失敗をおかしています。

ミッション・ステートメントは、「自分の価値観・目的意識を明文化したもの」ですので、「7つの習慣」などの本を見ると非常に仰々しい文章が掲載されていたりします。たとえばホテルのミッション・ステートメントなら、「お客様一人一人に最高のおもてなしを提供することを目的とする」といった具合です。

しかしこうしたミッション・ステートメントは、 素晴らしく書かれているものであればあるほど、言うまでもないことに触れている気がしないでしょうか? 「客をてきとうにあしらって利益を優先しましょう」というミッションがあり得ない以上、「お客様に最高のおもてなしを」と書かれていても、なんだかいまいちわかりづらいわけです。

私たちが自分自身のミッションを書くときに同じ轍を踏んでしまうと、同じように「口当たりは良いけれども具体的に何をすればいいのかわからないミッション」ができあがってしまいます。

これは「7つの習慣」がまず本の中でミッション・ステートメントという概念を紹介するのを優先するあまり、実際的な書き方についてページをあまり割いていないことから起こっている混乱のようです。

よいミッションは、あれもこれもと手を出してしまう自分の手綱をおさえて、本質的に大事なことに集中させてくれる舵取りの役割をしてくれます。

新年に向けて、肩肘を張らずに1年の成長を考えた現実的なミッション作りをしてみてはいかがでしょうか?

よいミッションとは?

よく引き合いに出されますが、ミッション・ステートメントの傑作といってもいいのが Google のものです。それは「Google’s mission is to organize the world’s information and make it universally accessible and useful. 」というもので、一行の短い文章のなかに Google の行動原則の全てが込められています。しかも「最高の」や「すばらしい」などといった抽象的な形容がないのも特徴です。

このように、良いミッション・ステートメントは「自分は A であって Bではない」、「私は A を実行する人間であり、それ以外のことは自分にとって関係ない」という自分の偏りを明らかにしてくれているもののようです。

私が初めて「7つの習慣」を読んだときに感動が醒める間もなく書いたミッションには「信仰・愛情・謙虚・誠実・勤勉」とどといった言葉がならんでいて、読み返してみてキリストとソクラテスとエジソンに同時になろうとしているようなことが書かれていました。

多くのミッション・ステートメントが機能不全に陥るのは、それがあまりに素晴らしすぎるために現実的でなかったり八方美人すぎるからのようです。「確実に失敗したいのなら、すべての人に気に入られるように努力することだ」と言われるように、いきなり完璧な人間を目指すのは行き過ぎなのです。

偏りを見いだす

ミッションを作るときに自分に投げかける質問として「あなたが価値をおいているものはなんですか?」というものがありますが、これは抽象的な質問なのでどうしても答えも抽象的になりがちのようです。

そこでもっと行動に落とし込んだミッションを作るために、拘束条件を加えてみるのが有効だということに気づきました。たとえば:

「仕事、家庭、趣味の3つのうち2つし選べないなら、現時点ではどの2つになるか?」

「私は○○の夢をかなえるために××を制限する用意がある」

といった感じです。

「自分は自分の一番得意な○○に特化し、××は二次的にしか行わない」

「いまは家庭を大事にしたいという願いのために、職場で残業をある程度断ることを辞さない」

こうした行動の選択を行うことが、ミッション・ステートメントの根幹となるわけです。全ての人を満足させることはできない。それならば、自分は何を優先するのかに、答えを与えます。

しかし全ての人を満足にできないからといって、一方を完全に否定する必要はありません。バランスもとりましょう。たとえば上の例なら:

「いまは家庭を大事にしたいので残業はあるていど断るが、その失点は・・で取り戻すつもり」

という具合に、自分ポリシーができればよいわけです。 肝心なのは自分の裁量で許される範囲内において、自分の主体性で選んだルールがあるということになります。

欲望とつなげる

しかしいくら自分との契約書といっても、ミッション・ステートメントは「私は〜する」とか「私は〜すべき」という言葉で書かれている以上、どこか強制的な感じがして反抗してしまいたくなるのが人の性です。

私も「意志の力だけでミッションを遂行できるかっこいい人間になりたい」といつも思ってはいますが、どうしても怠けぐせがぬけないのが実情です。スポーツ選手じゃありませんが、やはりこうした拘束的な契約書にサインするには何か魅力的な条件がなければ継続しない傾向があります。

そこで考えたのが以下の二つ。

  • 将来を約束する

  • 自分に褒美を与える

です。「将来を約束する」のは「A のスキルを常に磨く」というミッションがあったとしたなら、それに「A のミッションをつねに磨けば、将来の独立に必ず役立つ」といった具合にその行動が約束する(と思われる)将来像を付け加えておくという方法です。遠い将来像と手近な行動原則を結びつけておくことで欲望をかきたてようというわけです。

「自分に褒美をあたえる」のはまさに字の通りで、マイルストーンを用意しておいて「英語などのスキルを常に学ぶこと。その上で A 資格試験に合格したら B することを約束する」という具合に、やはり恒常的な行動原則に手近なご褒美を結びつけておく方法です。

他にもいろいろ方法はあるのでしょうけれども、遠い目標と手近な行動の時間差を埋めることが、現実的な行動を後押しする最もよい方法のようです。

アップグレードして再契約

「7つの習慣」の原書にはミッションは軽々しく変更するべきではないということがかかれていますが、私は何度も失敗してきた経験から、この変化の激しい世の中ではそれも現実的ではないのではないかと思ってます。

たしかに、あっちからこっちへと自分の方針を風見鶏のように変えている人には長期的な発展も望むべくもないのですが、かといって汎用性を求めすぎると漠然として実行が難しいミッションができあがる傾向があるように思えます。

そこで去年は一年間変えずにいた自分の仕事のミッションを、自分がミッションに「飽きる」までの時間を3ヶ月くらいと見積もって、そのたびごとに微調整することを考えています。

おおもとの部分は変えないままですが、細かい行動原則を調整することで、その時点で一番大事なことをしているという気にさせるためでもあります。

この一週間はサンフランシスコで国際会議に参加しながら、ずっとこんなことを考えていました。新しい出会いと経験がもたらしてくれた新しい野心や希望をも含めつつ、2008年01 バージョンのミッションができあがってきました。

来年の今頃、また同じ場所で、さらに大きな夢を追うことができるようにするための、自分自身との契約です。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。