夏休み特集 (4) 三日坊主にならない日記のつけかた
もう7年も前になるでしょうか。糊口をしのぐために小学生相手に英語の夏期講習をしていた頃のことです。「英語」は English、「フランス語」は French だよ、と発音を繰り返して教えていると、小学校5年生の女の子がしきりに首をかしげはじめました。
「え、フランスが、フレンチ? じゃあ、フランスパンは、フランスパンは…」だんだん首が傾いてきて、もう折れてしまうのではないかというところまで曲がったところで、彼女の目がきらりと光りました「じゃあ、フランスパンは、本当はフレンチパンだね!」
どうしてこんな小さな可笑しい出来事を覚えているのかというと、キャプチャーしていたからです。私も日記が続かなくて、夏休みの宿題の絵日記を8月31日になってから必死で日記帳を埋めていた一人ですが、日記を単なる1行のキャプチャーだと考え直すと、わりといくらでも続けることが可能になります。
今日は三日坊主になりがちな日記をさくさく付けられるようになるための二つの改良について紹介します。
ルール1: 毎日1行しか書かない
The Happiness Project の記事に One Sentence Journal という習慣の紹介があり、まさに要点を捉えています。これは毎日365日、1日に1行しか日記を付けず、一年ごとにその数百行の記録を製本して家族に渡しているという話です。
日記をすぐにやめてしまう理由の一つに、いつも苦労して1ページだとか1段落だとか、一定量の文章を書き留めなければいけないと思いこんでいるからというのがあります。しかし、日によって出来事の密度が違うのは当然なのですから、深いことは考えずにその日に何があったかを、たった一行で書き留めるだけで立派な日記になります。
実際には、楽しいことがあった日などはもう少し書きたくなって、3、4行書いてしまうこともありますが、それは別にかまいません。ようは日記というものに対して持っている心のハードルを格段に下げてしまうのがコツなのです。
本当に何もなかった、あるいは疲れすぎていて何も考えられない日には、日付、天気、今日の行動、といった自分で決めた「定番項目」を書き込むだけでも、立派な1行日記になります。
ルール2: いつでもいいから書き留める
日記はその日にあったできごとを完全な形で書く場所だから、一日の終わりにまとめて書かなければいけないと思っている人が意外に多いのではないでしょうか。
しかし、一日の終わりというのは一日の始まりと同じく、やたらと忙しい時間です。次の日の準備や、眠る前の支度、寝床を作ったり、歯を磨いたりなど、やるべきことはいろいろとあります。さて寝床に入ってから一日をゆっくり回想しよう、などという暇は存外ないものです。
そこで、日記でその日の完全な記録をとることはあきらめて、日記にはその日にあった出来事や考えの断片をその都度キャプチャーするためのものだと割り切ってしまうことが二つめのコツになります。そして午前中だろうと、午後だろうと、Twitter に書き込むようにその日を1行で切り取ってしまいます。
このコツが効果的な理由はもう一つあって、「これを記録しておきたい」と思ったときが一番それを記録するのに最適だからというのがあります。記憶力の弱い私は、一日の終わりになったころには今日の午前中に何があったかも忘れていたりしますので、出来事の最中にキャプチャーする方が便利ですし、一番臨場感があって楽しかったりします。
その他
ここまでくると、日記なんだか手書き Twitter なんだかわからなくなってきますが、過去にあったことを忘れないように書いておく、という意味での日記の機能は十分に果たすことができていると思います。
この形式でキャプチャーをしていると、どうしても重くて大きい日記帳は使うことがおっくうになってきます。それもあって値段は高いですが、軽量で頑丈なポケット Moleskine 手帳をこだわって使うことにしています。
Moleskine には日記用の印字がしてあるのもありますが、普通の手帳に比べて少し分厚いですし、一日一日の文章量が大きく変化するのに対応できないので、こちらは使っていません。
また、今の時代、手帳にこだわらなくても携帯で自分にメールしたり、Twitter にしたりするのでもいいのでしょう。携帯なら長文を打つ気力もなくなりますので、上のコツを意識せずに踏襲できます。
今はどんなに鮮明に覚えていることでも、いつかはきっと忘れてしまいます。その「いつか」は思いのほか早くやってくるものですから、記念写真を撮るように一瞬の記憶の断片をキャプチャーしておけば、何年たってからでもその瞬間を生きることができます。
「残念! パンは英語では Bread なんだ」と教えたときの、この女の子の「えーっ?」という顔つきと、子供の発想力の奔放さに心が弾んだあの一瞬を、私のノートはずっとそのままに保存してくれています。
夏休みの一瞬の記憶を、一行にしてみるのはいかがでしょう?