我が決断に一片の悔いなし! 決断と感情とのねじれの関係

Why you shouldn’t let feelings play into tough decisions | Lifehacker

単なる情報よりも、考えさせられるブログ記事というのは珍しいです。Lifehacker に紹介されてたこの記事はそんな一つ。「決断をするときに感情を織り交ぜない方がよい理由」についてです。込み入った話ですけど興味深く読めました。

人が何かを期待して決断をするときに「このテストに合格したらこれくらい嬉しいだろう」という期待や、「この商談が失敗に終わったらこれくらいへこむだろうな」という後悔に対する予断が入り込みます。こうした予想があるからこそ、無謀な決断を思いとどまったり、ゴールを目指してがんばれたりするわけです。

しかし University Collage London の心理学者の今月発表された研究によると、簡単な二つの実験によって、私たちが自分の決断に対して感じる感情的な反応は、思っていたのと違うのだという話です。

理屈注意報! ここから先は、かなり理屈っぽい文章が続きます!週末に理屈をこねるのが趣味という同好の士はどうぞ。

この論文では二つの実験が行われたそうです。

  • 実験1: 被験者を一組ずつにわけて金銭に関わる取引をさせ、そのネゴシエーションのスタイルや期待度を定量化できるようにしたうえで、その商談が破局を迎えた場合の失望感を調査しました。その結果、私たちは失敗した場合の失望感を系統的に大きく見積もっている場合が多く、また期待度が高い場合ほど「後悔」の絶対値が大きくなる傾向にあるとのことです。

  • 実験2: 被験者にあるテストを行い、その成績が予想よりも高い場合、同じ場合、低かった場合にどう思うかを調べてみたました。その結果、被験者の多くは考えていたよりも成績がよかった場合に感じる喜びは過大評価するのに対して、悪かった場合の後悔は過小評価する傾向にあったそうです。

どういうことなんだか私には一度読んだだけではわかりませんでした。

最初の実験は、感情的になったり、欲張った交渉をしている人ほど、あらかじめ失敗した場合に感じる失望感を高く見積もっており、かつ、実際にそういう反応を示す場合が多いと言うことを示しています。これは Self Fulfilling Prophecy、つまり「悪いことがおこるだろうなと思っていると、悪いようにものごとを進めがちになって、実際に悪いことが起きる」という効果も入っているみたいです。

二番目の実験は、「テストの成績がよかったらこれだけ嬉しいはず」と思っていても、実際良かった場合でも予想したほどは嬉しくならないということを示しています。それなのに、予想より成績が低かった場合は当然のことながら、予想以上にへこむということです。

二つを総合すると、決断や行動を行ったときに「きっとこれだけ嬉しくなる」「失敗したらきっとこれだけへこむ」と考える予断はは、実際にやってくる達成感や後悔はねじれの関係になっていることを示しているようです。つまり、予想より結果が良くても嬉しくならないし、悪かったら落ち込めるだけ落ち込んでしまうというのが人間心理のくせだというわけですね。

そこで著者らは、決断をするときにあらかじめ「これだけ嬉しくなるだろう」「失敗したらこれだけ落ち込む」という予断なしに理性的、論理的に進めた方が、結果的により多くの喜びを得て、失敗した場合の後悔にさらされずにすむとしています。

うーん。この結論の部分だけが、承伏しかねて、ずいぶんと考え込んでしまいました。

論文の要旨を読んだだけですが、私にはこの実験結果は、自分の手法や実力に関する間違った認識が正されるときに感じる当然のストレスを浮き彫りにしただけのような気がします。ですから、そうしたストレスを感じないようにするには、むしろゆがんだ自己イメージを修正することの方が先決で、感情レベルを下げましょうというのは、なんだか問題を解決するために問題を見ないふりをしているだけのように思えます。

自分の手法・成績に対する理性的な自己イメージが確立しているなら、それに大きな期待をかけても、万が一失敗しても後悔は生まれにくいと思うのですが、青臭い考え方なのでしょうか。この点、原論文をあたってみてさらに考えを進めてみたいと思います。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。