メールのための GTD、「Inbox Zero」の実践

43Folders ネタが続きますが、先日 Merlin Mann が Google Tech Talk で講演をしていた内容とスライドが公開されていましたので、内容をかいつまんでご紹介します。

講演のタイトルは “Inbox Zero”。メールの受信箱の残りメールの数をゼロにするメール処理のアプローチについてです。

受信箱のなかで生きるのはやめよう

メールの受信箱は、放っておけば魔窟になります。まだ読んでいないメールや、まだ返事を書いていないメール、調べてから返事を書こうと思っていたのにそのままになっているメール、先方からの返事を待っているメール、遠い昔に親から届いたのだけれども返事をかかずにいて罪悪感だけが残って消せずにいるメール。これらが何百通も折り重なって手のつけようのない状態になっている人も多いのではないでしょうか?

その果ては、今日出席する会議や、やらなきゃいけない仕事なども受信箱のなかにたまったままになっていて、一日の始めが「さて、放っておけば火を噴くような懸案事項はなかったっけ」と、受信箱の捜索から始まっているようなら、それは “living out of the inbox” つまり「受信箱の中で生きている」のも同然だと Merlin はユーモアたっぷりにイントロダクションで言っています。

どんなに仕事が出来る人でも一日の「時間」と「注意力」には限度があります。その有限のリソースをメールチェックで埋め尽くさないためにも、メール管理自体を逆の発想で行わないといけないと Merlin は主張します。つまり、メールそのものを整理するのではなく、メールから action をはぎ取ってさくさくと消すか・アーカイブするという発想のアプローチです。これが、Inbox Zero の原則です

メールを「処理」する

メールを「処理」するというのは、全てのメールに返事をすることではありませんし、全てのメールに付随する仕事を片付けてしまうことでもありません。

メールを「処理」するというのは、メールから予定なら予定、やるべき仕事ならやるべき仕事の情報を抽出し、カレンダーや ToDo リストなどといった別の場所に格納した上で、メール自体は消すかアーカイブしてしまうということを指しています。Merlin は GTD にも似た方法で次の5ステップでメールを「処理」することを提案しています。

  1. 消去・アーカイブ: そのメールに対してとるべき行動がないなら、即座に消すか、とっておきたいならアーカイブしてしまいます。アーカイブ先はたった一つのフォルダにすることが原則です。フォルダを整理しているひまがあるなら、GMail ならラベル、Mac OS X なら MailTag のタグなどを貼り付けてアーカイブフォルダに投げ込みます。「あとで見つかるか?」と心配になるかもしれませんが、ラベルと、検索の力を信じましょう。

  2. 転送・デレゲート: 転送するメールなら、即座に転送して、メール自体はアーカイブします。返事待ちになるなら、「返事待ち」などとラベルして、やはりアーカイブ。

  3. 返信:その場で返信できるなら即座にやってしまう。この際にもなるべく5行で短く返信できるようにしておく。長いメールに対しても短く返事をすることをクセにすると同時に、同僚にも普段の会話で「自分はメールを簡潔に書くようにしている」と了解を取り付ける。

  4. あとでやる: その場でできないことなら、ToDo リストのなかにタスクを書き込み、メール自体にはフラグを立てるか、「あとでやる」のラベルを貼り付けた上でアーカイブしてしまいます。

  5. Do: その場で2、3分でできることなら、やっつけてしまい、メール自体も消すかアーカイブする。メールがスケジュールなどに関することなら、カレンダーに記入した上で、やはりメールは消すかアーカイブします。

GTD のインボックス処理と同じく、時間のかかる仕事をその場でやってしまうわけではないことに注意してください。あくまで、ここで行っているのはメールから action をはぎ取って安心できる別のシステム(カレンダー、ToDo リスト)に格納しているという作業です。action がはぎ取られたメールの残骸は、消してしまうか、あるいは将来のレファレンスのためにアーカイブしています。

こうした作業を、受信箱がゼロになるまで一気に行います。仕事が許すなら、自動受信機能なるべくオフにして、メールがやってくるペースではなくて自分のペースで1日に数回受信箱をゼロにもっていきます。

Merlin はこうしたプロセスを援護するコツとして、可能な限りメールから離れて一日に少ない回数でまとめてやること、返事する必要のないメーリングリストなどはフィルターを使ってはじめから処理しなくていいようにしておくこと、繰り返しの多い文章はテンプレートをなるべく作ることを挙げています。

Inbox Zero = メールのための GTD

Inbox Zero の考え方は、GTD をメールに適用したようなものです。

手紙のアナロジーのせいか、メールはなんだか大事にとっておいたり整理したりするものだと考えられがちですが、文中から大事な action だけを釣り上げながら、常にゴミ箱かアーカイブにむけて流してゆくスタイルのおかげで、メールに振り回されるのではなく、メールを操っている感覚が取り戻せます。この心が軽くなる効果は非常に大きいものがあります。

いま何百通のものメールが受信箱に入っていて困っている人は、ぜひ「古いメール」というフォルダに全てを投げ込んでみて、心機一転でメール処理を初めてみてください。常に残りメールの数をゼロにもっていくのはなんだかゲームみたいで楽しい物があります。

Inbox Zero については、43Folders で数々の記事になっているので、そちらもぜひご覧ください。

Video for Merlin’s “Inbox Zero” talk | 43Folders

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。