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テクニックだけではないプレゼンの極意を伝える「TED Talks」



どちらかといえば退屈であったり緊張したりといった講演やプレゼンテーションを、興奮するエンターテイメントであり、ムーブメントに変えたのは、まぎれもなく TED です。

頭のなかではっとするアイデアがスパークし、知らなかった事実に目を開かされ、共感と感動にその場で立ち上がって拍手したくなる数多くの講演が TED では公開されています。”Ideas worth spreading” 「広めるにあたいするアイデア」というミッション・ステートメントの通り、それまで一人の研究者や活動家の頭のなかにだけあった思考や経験を、誰もが視聴し共有できるプラットフォームにまで成長させた功績は大きいといえるでしょう。

その TED のプレゼンテーションはどのように着想され、準備され、そして演じられるのでしょうか。何百万人もの人が見ることを全体とした講演を、演者たちはどのようにプレッシャーに負けずにやってのけるのでしょう。

その舞台裏をみせてくれるのがほかならない TED の代表者であるクリス・アンダーソンによって書かれた「TED Talks」です。日経BPさまから貴重な一冊いただきましたので、さっそくなめるようにして読んでいました。

新時代のキャンプファイアとしてのプレゼン

TED のスピーチの凄さだけを聞いていると、その特徴を見失いがちになります。TED では多くの場合、演者は講演台をつかわず、観客とのあいだに仕切りがない空間で親密に語りかけます。

この親密さを保証するために、存在感がない肌色の細いマイクが口元にあるだけで、両手は解放されていることがほとんどです。

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学会のような論争が期待されているわけではありませんし、質疑もたいていはありません。プロローグで表現されているように、それはキャンプファイア、焚き火のまわりに人が集まって語り部に耳を傾ける様子に似ているのです。ここはリラックスして、新しいアイデアに心を開く場所なのです。

演者に求められるのは、この空間で深い洞察を提供し、難しい専門的成果を説明し、偏見や無知に覆われている聴衆の目をひらいて共感に導くことであったりします。

そのために使用されているテクニックから、テクニックの先にある極意について、本書では実際の TED トークをふんだんに例に使いながら説明を試みます。

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特に、わたしが本書を読んでとても感謝したのが比較的冒頭で紹介され、本全体で応用されている「スルーライン」という概念の説明があったことです。

日本ではこの言葉をあまり聞いたことはないと思いますが、それは本や映画やひとつのスピーチを最初から最後まで貫く、基本的なテーマやアイデアのことを指す用語です。

テーマというと重々しいのですが、こういった内容のメッセージを、どんな雰囲気で伝えるのかという、プレゼンにおける基調音といってもいいものです。すばらしいプレゼンは、単に情報を与えるだけではなく、必ずこのスルーラインが意識的であれ、無意識的であれ考慮されているのです。

プレゼンのテクニックについて書いている本はありますが、この説明が難しい鍵概念を冒頭にもってきて、テクニックの先にある深みや感動はどのように醸成されてゆくかにまで踏み込んでいる本書はそれ自体が一つの TED トークのような構成をもっています。

惜しい点は、図版がほしかったこと

スルーラインをつくり、それをどのようにプレゼンのなかに実現してゆくかについて本書は具体的な部分から、抽象的で「プレゼン慣れした人がわかる」境地に至るまで解説していきます。

たとえば、プレゼン内容についてストーリーをどのように組み立てるか、説明はどのようにするか、説得はどのようにするかという具合にわけられているのは、プレゼンを回数こなした人にはなるほどと頷く場所だと思います。

プレゼンには、難しい概念を説明する部分と、聴衆にとって抵抗感がある意見を説得して伝える部分、それを支えるストーリーテリングという要素があり、それぞれが違う力学で構成されていることを体系的に教えてくれているのですね。

一つだけ、本書で惜しい点があるとすると、それは図版が一つもないという点です。もちろん権利関係が難しかったと思うのですが、プレゼンにおけるビジュアルの大切さについての説明に、写真がないのはちょっとだけさびしいところがありました。

引用されている TED トークは全部閲覧可能なのですから、見に行けばよいのですが(笑)

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TED の先にある知的な議論を楽しむ世界

最後に、これは本書それ自体とは関係ないのですが、TED トークを見慣れた方、これから見る方にぜひおすすめしたいのは「TED トークの限界はどこにあるだろうか」という見方です。

一見、世界最高峰で、これ以上はなさそうな華やかな TED のステージですが、なかには中にはとんでもないものもあるのです。以前 TEDxTokyo に参加した際、すばらしいスピーチが数多くあるなかに、あらゆる意味で実現不可能で冒涜的なアイデアを発表していたひとがいて、驚いたことがあります。パフォーマンスアートかと周囲を見回したほどでした。

TED 的なステージは、暖かく、楽しむ場所です。その雰囲気にのまれて拍手をしてしまう気持ちもわかるのですが、駄目なものは駄目という批判精神は、プレゼンという芸術においてすべてに優先します。

アイデアに心を開くことを学んだなら、TED トークでさえも批判的にみることができるというさらに高いレベルでの視聴を試みたいところです。それは演者を否定することでも、侮辱することでもありません。アイデアが広がって、批判によって磨かれてさらに高みを目指しているということなのです。

知的な議論に不可欠なプレゼンテーションの技術を本書で学び、さらにそれを批判的に検討する高みへと。それはこれからの時代を生き抜くための心強い武器になるはずです。

「TED Talk」は 7月15日発売予定ですのでまずは予約ですよ!

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著者について

堀 正岳

「人生を変える小さな習慣」をテーマとしたブログ、Lifehacking.jp 管理人として、仕事術、ライフハック、テクノロジー、文具、ソーシャルメディアなどについて執筆中。2011年アルファブロガー・アワード受賞。Evernote ライフスタイルアンバサダー。ScanSnapアンバサダー。この他のブログに、ライフ×メモ 、Climate+を運営しています。